西中島南方駅より徒歩7分の不動産会社

BLOG ブログ

不動産取引にかかるマネー・ロンダリング対策について詳しく解説!

不動産取引を行うときには本人確認書類の提示が必要です

コンプライアンスという概念が強調されるようになったのは、2000年代になってからであり、必ずしもその歴史は古くはないようです。
しかし、それに先立って昭和40年代後半頃には、公害問題などを契機として、「企業の社会的責任」という概念が取り沙汰されるようになりました。

この概念は、企業が各種の経済活動を行う過程において、単に利益の追求のみを指向するのではなく、社会の一員として、消費者、従業員、地域住民、取引先、株主・投資家など、企業を取り巻く関係者との関係を重視しながら、社会に対する責任や社会貢献を果たさなければならないという一般社会からの要請を意味します。

コンプライアンスの概念について、一義的なものはありませんが、その意味を「法令遵守」と狭くとらえては、現在のコンプライアンス重視という流れからみれば正しくありません。
各種の活動を行う法人や自然人が法令を守らなければならないことは当然であって、もし法令遵守だけの意味であれば、わざわざ外来語を用いる必要はありません。
コンプライアンスは、前記のように法令遵守は当然として、社会倫理、社内ルール、経営理念・ビジョンを含む広範囲の概念と捉えるべきでしょう。

コンプライアンスに関連する重要項目の1つとして、マネー・ロンダリングに対する対策があげられます。
不動産売買は基本的に高額な取引であることから、疑わしい取引については慎重に判断し、場合によっては回避されているものも多くあるでしょう。
しかし、取引のオンライン化など取引の方法も多様化しており、より一層慎重な対応が求められます。

今回は、不動産取引にかかるマネー・ロンダリング対策について、お話し致します。

犯罪収益移転防止法の制定の背景と経緯

犯罪収益移転防止法、正式には「犯罪による収益の移転防止に関する法律」は、いわゆるマネー・ロンダリング(資金洗浄)対策およびテロ資金対策の国際的取組みに対応して、2007年(平成19年)3月に成立公布され、2008年(平成20年)に全面施行された法律です。

この法律の制定の背景には、麻薬や銃器などの国際犯罪に関する、マネー・ロンダリングおよび国際的なテロの横行拡大という現象があります。
こうした問題への国際的取組みとして、1989年(平成元年)にアルシュサミットでマネー・ロンダリング対策推進のために金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)が政府間機関として設立されました。
翌1990年、FATFは、マネーロンダリング対策として40項目にわたる勧告を発表し、各国が採るべき刑事法制、金融法制における措置を求めました。
その後、2度にわたる勧告の改定が行われ、業務の強化や犯罪収益の対象の拡大が図られました。

このような国際的な潮流の中で、日本でも2002年(平成14年)に「金融機関などによる顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」、いわゆる「本人確認法」が制定されました。
金融機関などは、本人確認義務、取引記録の作成保存義務などを負担し、金融庁長官への報告、立入検査権、是正命令などの権限が定められました。

これに続く犯罪収益移転防止法は、前記FATFの2003年(平成15年)の勧告に基づき、対象となる事業者の範囲を大幅に拡大しました。
また、犯罪による収益である疑いのある取引についての届出義務を、より明確に規定したものとなっています。

この後、法制定後の運用状況に関するFATFの勧告などに基づいて、2023年(令和5年)までに関係法令の数次の改正が行なわれています。
この5年間ほどの主な改正内容は、次のとおりです。

参考:犯罪による収益の移転防止に関する法律【e-GOV】

参考:犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則【e-GOV】

参考:金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律要綱【金融庁】

疑わしい取引の届け出に関する判断方法の明確化

① 疑わしい取引の判断方法に関して、その基準などを具体的に明示しました。
※参考:「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第8条第2項、施行規則第26条、第27条

② 国家公安委員会が、毎年、事業者が行う取引の種別ごとに犯罪による収益の移転の危険性の程度、その他の調査、分析の結果を記載した「犯罪収益移転危険度調査書」を作成し、公表しました。
※参考:「犯罪による収益の移転防止に関する法律」第3条第3項

「顧客管理を行う上で特別の注意を要するもの」を新設

従来も、一定のリスクが高い取引や顧客については、厳格な取引時確認が義務付けられていましたが、これに加えて、新たな類型として、「疑わしい取引その他の顧客管理を行う上で特別の注意を要するもの」が新設されました。

本人確認書類と確認の方法

本人特定事項の確認の際の確認書類として、個人番号カード(マイナンバーカード)が追加されました。

確認の方法に関しては、健康保険証や国民年金手帳などのように、顔写真書類については一定の追加的な確認措置が必要とされました。

また、ICT技術の発達や対面取引の回避傾向の影響などから、個人顧客および法人顧客の本人確認方法に関して、オンラインで完結可能な手法も追加されました。

法人の取引の任に当たっている自然認の確認

顧客などが法人の場合に、法人を代理して取引の任務を行っている従業員などの本人特定事項の確認を行わなければなりません。
その確認方法として、従来認められていた、その顧客(法人)などが発行した身分証明書(例えば、従業員証明書、社員証など)は排除され、使用できないことになりました。

特定事業者の内部体制整備等の努力義務の拡充

従来においても、事業者は「使用人に対する教育訓練の実施その他の必要な体制の整備」について、努力義務が規定されていました。
そして改正により、次の3つの努力義務が追加されました。

① 取引時確認などの措置の実施に関する規定の作成
② 取引時確認などの措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任
③ その他主務省令で定める措置として「特定事業者作成書面等」の作成・見直し、リスクの高い取引について統括管理者による承認などの措置を講じること。

なお、国土交通省が、2022年(令和4年)10月31日に「宅地建物取引業におけるマネー・ロンダリング及びテロ資金給与対策に関するガイドライン」を制定しました。
その中では「対策に係る基本的考え方」「リスクベース・アプローチ」「管理体制とその有効性の検証・見直し」などが掲載されています。

犯罪収益移転防止法の目的

犯罪収益移転防止法は、「犯罪による収益が組織的な犯罪を助長するために使用されるとともに、これが移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えるものであること、および犯罪による収益の移転が没収、追徴その他の手続きによりこれを剥奪し、または犯罪による被害の回復に充てることを困難にするものであることから、犯罪による収益の移転を防止することが極めて重要である」という思想を明示しました。

その手段として、特定事業者による、「① 顧客などの取引時確認」、「② 確認記録の作成・保存」、「③ 取引記録の作成・保存」、「④ 疑わしい取引の届出」などの措置を講ずることとしました。

「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法」および「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法などの特例等に関する法律(麻薬特例法)」による措置と相まって、「① 犯罪による収益の移転防止」と「② テロリズムに対する資金供与の防止」に関する国際条約などの適格な実施の確保を図ることとし、最終目的として「国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与すること」を謳っています。

犯罪収益移転防止法の概要

この法律で、一定の義務が課される「特定事業者」については、特定事業者を49種列挙しています。
※参考:「犯罪収益移転防止法」第2条第2項

法律の目的を達するため、その取引対象からみて本人確認義務、一定の取引の届出義務を課すのが妥当と考えられる業種が掲げられています。
同項には、第1号の銀行から始まって第49号の税理士、税理士法人まであります。

不動産業者に関係するものとしては、第21号「金融商品取引業者(信託受益権の販売や仲介などの義務を含む)、第27号「不動産特定共同事業者」、第42号「宅地建物取引業者」が掲げられています。

参考:「犯罪収益移転防止法」第2条【e-GOV】

取引時確認義務

特定事業者は、顧客などとの間で「特定業務」にかかる「特定の取引」を行うに際しては、運転免許証の提示を受ける方法その他主務省令で定める方法により、その顧客などについて次の事項の確認を行わなければなりません。
※参考:「特定業務」とは、宅地建物取引業者の場合は、宅建業務のうち、宅地建物の売買またはその代理、媒介に係るものをいいます。
※参考:「特定の取引」とは、宅地建物取引業者の場合は、宅地建物の売買契約の締結その他の政令で定める取引をいいます。


(1)本人特定事項
・自然人は、氏名、住所(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)および生年月日をいいます。
・法人は、名称および本店または主たる事務所の所在地をいいます。
(2)取引を行う目的
(3)当該顧客などが自然人である場合にあっては職業、当該顧客などが法人である場合にあっては事業の内容
(4)当該顧客などが法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にある者として主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項

この義務に違反した場合には、是正命令の対象となります。
また、この是正命令にも違反した場合には、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科の罰則を受けます。
なお、両罰規定により、法人も3億円以下の罰金に処せられます。

確認記録の作成義務

特定事業者は、取引時確認を行った場合には、直ちに主務省令で定める方法により、当該取引時確認にかかる事項、当該取引時確認のためにとった措置その他の主務省令で定める事例に関する記録(確認記録)を作成し、その確認記録を7年間保存しなければなりません。

この義務に違反した場合には、是正命令の対象となります。
また、この是正命令にも違反した場合には、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科の罰則を受けます。
なお、両罰規定により、法人も3億円以下の罰金に処せられます。

取引記録などの作成義務

特定事業者は、特定業務にかかる特定の取引を行った場合には、少額の取引など一定の取引を除き、直ちに主務省令で定める方法により顧客等の確認記録を検索するための事項その取引の期日および内容その他主務省令で定める事項に関する記録(取引記録など)を作成し、その記録を7年間保存しなければなりません。

この義務に違反した場合には、是正命令の対象となります。
また、この是正命令にも違反した場合には、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科の罰則を受けます。
なお、両罰規定により、法人も3億円以下の罰金に処せられます。

疑わしい取引の届出義務

特定事業者は、取引時確認の結果その他の事情を勘案して、特定業務において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあり、または顧客などが特定業務に関し組織犯罪処罰法第10条の罪または麻薬特例法第6条の罪にあたる行為を行っている疑いがあると認められる場合においては、速やかに政令で定める事項を行政庁に届け出なければなりません。

この義務に違反した場合には、是正命令の対象となります。
また、この是正命令にも違反した場合には、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科の罰則を受けます。
なお、両罰規定により、法人も3億円以下の罰金に処せられます。

疑わしい取引の届出に関し、2023年(令和5年)12月発行の「犯罪収益移転危険度調査書」によって特定事業者の業態別の年間届出件数(令和2年から令和4年の3年間)を見ると、金融機関などが毎年40万件超となっているのに対して、宅地建物取引業者は毎年10件前後となっており、かなり少ない状況です。

不動産売買は基本的に高額な取引であり、届出件数が少ない理由に関して、疑わしい取引については実行を回避するのが原則であることの結果とも考えられます。

一方で、この届出は、マネー・ロンダリング法犯罪摘発の端緒ともなり得るものです。
売買取引の目的や、取引態様(全額現金による代金授受など)に関して、多少なりとも疑わしい点があれば、届出を行うことを励行するべきでしょう。
その意味では、本人確認を行うことだけを犯罪収益移転防止法が求めているわけではなく、その結果として、疑わしい取引をあぶり出すために届出を行うことが大切であることを理解するとよいでしょう。

終わりに

今回は、不動産取引にかかるマネー・ロンダリング対策について、お話し致しました。

マネー・ロンダリングについて、これまで意識をされていなかった方が大半と考えられます。
特に、疑わしい取引の届出に対し、犯罪収益移転危険度調査書によって特定事業者の業態別の年間届出件数を見ると、金融機関などが毎年40万件超あるのに対して、宅地建物取引業者は毎年10件前後と、かなり少ない状況であることからも想像できます。
しかし、その意識の低さから、今後不動産取引に関しても狙われる可能性は十分に考えられ、注意をしなければなりません。

次回は、不動産業における反社会的勢力の排除に関する取組みについて、取り上げます。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。

お問い合わせやご相談はこちらから