
相続に伴う不動産の事案では、借地や借地権付き建物の売買を検討されるケースも増えています。
借地を売却等によって譲渡する場合には、地主の承諾が必要であり、承諾料を支払わなければならないことも多いでしょう。
このような契約に関わる条件や人が多くなる場合は、特に注意しなければなりません。
このケースの場合、多くの人は「地主の承諾が得られなかった場合」については注意するでしょうが、「売主もしくは買主が解除した場合」について、軽視されることがあります。
具体的には、承諾料を支払ったにもかかわらず、売買契約が解除された場合のことを考えておく必要があります。
今回は、借地権売買を行うときの譲渡承諾料の返還請求について、お話し致します。
借地権付き建物の売買契約が解除されたときの、売主の支払済みの譲渡承諾料の地主の返還義務

借地権付き建物の売買を行うにあたって、地主(土地所有者)に土地譲渡の承諾を得る必要があり、譲渡承諾料を支払わなければならないケースがあるでしょう。
問題なく引渡しに至ればよいですが、何らかの事情等によって、承諾料を支払ったものの売買契約が解除されることになった場合、譲渡承諾料は当然に返還されるものでしょうか。
過去に、借地権売買を行うときの譲渡承諾料の返還が認められなかった判例があります。
この判例を参考に参考にお話しします。
問題なく引渡しに至ればよいですが、何らかの事情等によって、承諾料を支払ったものの売買契約が解除されることになった場合、譲渡承諾料は当然に返還されるものでしょうか。
過去に、借地権売買を行うときの譲渡承諾料の返還が認められなかった判例があります。
この判例を参考に参考にお話しします。
紛争の内容と本事例の問題点
【紛争の内容】
1. 売主(X)は、買主(A)との間で、2018年(平成30年)12月、借地権付き建物を売買代金5,380万円で売却する売買契約を締結した。
2. 売主(X)、買主(A)、土地所有者(賃貸人、Y)は、 2019年(平成31年)3月14日、
① 売主(X)が土地所有者(Y)に対し、譲渡承諾料550万円を支払うことを条件に、本件借地権を売主(X)が買主(A)に譲渡することを承諾すること。
② 売主(X)が土地所有者(Y)に対し、譲渡承諾料を同年3月19日に支払うこと。
③ 上記承諾の効力発生後に、土地所有者(Y)と買主(A)の間で、本件土地の賃貸借契約を締結すること。
以上に合意し、売主(X)は土地所有者(Y)に対し、譲渡承諾料550万円を支払った。
3. しかし、売主(X)と買主(A)は、 2019年(平成31年)3月26日、本件売買契約について、
① 買主(A)の債務不履行を理由に、契約が解除されたことを確認すること。
② 買主(A)は、売主(X)に対し、債務不履行による損害賠償金として売買代金の20%の違約金支払い義務があることを認め、これを支払うこと。
③ 売主(X)は、土地所有者(Y)に支払済みの譲渡承諾料について返還を求めるよう努め、返還があった場合は買主(A)に遅滞なく相当額を返還すること。
以上に合意し、買主(A)は、売主(X)に対し、違約金1,076万円を支払った。
4. 売主(X)は土地所有者(Y)に対し、本件売買契約が解除されたことに伴い、譲渡承諾料の支払いに係る合意も解除された等と主張して、不当利益返還請求権に基づき、550万円の返還を求めて訴訟を提起した。
【本事例の問題点】
土地所有者(Y)は、借地権の売買契約が違約解約された場合、当然に借地権譲渡承諾料を返還する義務を負うか。
1. 売主(X)は、買主(A)との間で、2018年(平成30年)12月、借地権付き建物を売買代金5,380万円で売却する売買契約を締結した。
2. 売主(X)、買主(A)、土地所有者(賃貸人、Y)は、 2019年(平成31年)3月14日、
① 売主(X)が土地所有者(Y)に対し、譲渡承諾料550万円を支払うことを条件に、本件借地権を売主(X)が買主(A)に譲渡することを承諾すること。
② 売主(X)が土地所有者(Y)に対し、譲渡承諾料を同年3月19日に支払うこと。
③ 上記承諾の効力発生後に、土地所有者(Y)と買主(A)の間で、本件土地の賃貸借契約を締結すること。
以上に合意し、売主(X)は土地所有者(Y)に対し、譲渡承諾料550万円を支払った。
3. しかし、売主(X)と買主(A)は、 2019年(平成31年)3月26日、本件売買契約について、
① 買主(A)の債務不履行を理由に、契約が解除されたことを確認すること。
② 買主(A)は、売主(X)に対し、債務不履行による損害賠償金として売買代金の20%の違約金支払い義務があることを認め、これを支払うこと。
③ 売主(X)は、土地所有者(Y)に支払済みの譲渡承諾料について返還を求めるよう努め、返還があった場合は買主(A)に遅滞なく相当額を返還すること。
以上に合意し、買主(A)は、売主(X)に対し、違約金1,076万円を支払った。
4. 売主(X)は土地所有者(Y)に対し、本件売買契約が解除されたことに伴い、譲渡承諾料の支払いに係る合意も解除された等と主張して、不当利益返還請求権に基づき、550万円の返還を求めて訴訟を提起した。
【本事例の問題点】
土地所有者(Y)は、借地権の売買契約が違約解約された場合、当然に借地権譲渡承諾料を返還する義務を負うか。
本事例の結末
裁判所は、以下のとおり判断し、売主(X)の土地所有者(Y)に対する請求を棄却しました。
【判決の内容】
1. 本件売買契約の解除の合意は、
① 売主(X)と買主(A)との間で合意されたものであること。
② 譲渡承諾料の支払いに関する合意は、売主(X)と土地所有者(Y)との間でなされたものであるが、この合意時に、後に本件売買契約が解除される可能性があることも想定でき、その場合に支払済みの譲渡承諾料の返還を求めることができる合意をするなどの対応も可能であったが、そのような定めは設けられていないこと。
③ 売主(X)と買主(A)との間の合意では、売主(X)が土地所有者(Y)に支払済みの譲渡承諾料について返還を求めるよう努める旨の定めがあるのみで、売主(X)と買主(A)も、本件売買契約が解除されたからといって、当然には譲渡承諾料の返還を求めることができないと認識していたこと。
それらの事情に照らせば、本件売買契約が解除されたからといって、直ちに売主(X)と土地所有者(Y)との間の譲渡承諾料を支払う旨の合意の効力に消長を来すものではない。
2. 譲渡承諾料の支払合意の当時、売主(X)において、本件売買契約に係る買主(A)の代金支払債務が履行されるものと信頼したにもかかわらず、その見込みに反して債務が履行されなかったというだけでは、民法第95条にいう要素の錯誤があるとはいえない。
3. 土地所有者(Y)が譲渡承諾料を返還しないことが、ただちに公平に反するとはいえない。
以上から、土地所有者(Y)が譲渡承諾料を保持すべき法律上の原因がないとはいえない。
つまり、不当利益にはならない。
【判決の内容】
1. 本件売買契約の解除の合意は、
① 売主(X)と買主(A)との間で合意されたものであること。
② 譲渡承諾料の支払いに関する合意は、売主(X)と土地所有者(Y)との間でなされたものであるが、この合意時に、後に本件売買契約が解除される可能性があることも想定でき、その場合に支払済みの譲渡承諾料の返還を求めることができる合意をするなどの対応も可能であったが、そのような定めは設けられていないこと。
③ 売主(X)と買主(A)との間の合意では、売主(X)が土地所有者(Y)に支払済みの譲渡承諾料について返還を求めるよう努める旨の定めがあるのみで、売主(X)と買主(A)も、本件売買契約が解除されたからといって、当然には譲渡承諾料の返還を求めることができないと認識していたこと。
それらの事情に照らせば、本件売買契約が解除されたからといって、直ちに売主(X)と土地所有者(Y)との間の譲渡承諾料を支払う旨の合意の効力に消長を来すものではない。
2. 譲渡承諾料の支払合意の当時、売主(X)において、本件売買契約に係る買主(A)の代金支払債務が履行されるものと信頼したにもかかわらず、その見込みに反して債務が履行されなかったというだけでは、民法第95条にいう要素の錯誤があるとはいえない。
3. 土地所有者(Y)が譲渡承諾料を返還しないことが、ただちに公平に反するとはいえない。
以上から、土地所有者(Y)が譲渡承諾料を保持すべき法律上の原因がないとはいえない。
つまり、不当利益にはならない。
本事例からの考察
土地賃貸借契約に基づく借地権を譲渡するには、賃貸人の承諾が必要となります(民法第612条第1項)。
また、賃貸人の承諾を得ずに借地権を譲渡し、譲受人が使用・収益をすると、土地賃貸借の解除原因となってしまいます(民法第612条第2項)。
そこで、借地権付き建物の売買契約では、賃貸人の承諾を得ることを停止条件とする特約を付けるなど、賃貸人の承諾が得られない場合に、売主の違約とせずに、無償で解除できるようにしておくとよいでしょう。
また、承諾料を支払うことによって、賃貸人から借地権譲渡に関する承諾が得られた場合も、本判決の事案のように、買主との売買契約が買主の違約により解除されて、売買契約の目的が達成できないということも想定されます。
本判決が指摘しているように、売主と買主との間の売買契約と、売主(借地権者)と賃貸人との間の借地権の譲渡承諾に関する合意とは、当事者が異なる別個の合意です。
売買契約が解除されたからといって、当然に譲渡承諾に関する合意の効力が失われることにはなりません。
そのため、借地権付き建物の売買を行う売主や媒介業者としては、
① 売買契約の決済日当日に、賃貸人にも同席してもらい、賃貸人に承諾料を支払って借地料の譲渡承諾書をもらい、その後に買主との間で決済を行う。
② 事前に賃貸人に承諾料を支払い、譲渡承諾書をもらうのであれば、「売買契約が解除された場合は、譲渡承諾は無効となり、賃貸人は賃借人(売主)に承諾料を返還する。
以上のような条件を承諾書に定めておくとよいでしょう。
なお、借地借家法に基づく借地権であっても、地上権に基づく借地権については、設定者(土地所有者)の承諾がなくても、第三者への譲渡ができます。
借地権の多くは、一般的に土地賃貸借契約に基づく借地権であることが多いですが、借地権付き分譲マンション等では、地上権が設定されていることもありますので、注意しましょう。
また、賃貸人の承諾を得ずに借地権を譲渡し、譲受人が使用・収益をすると、土地賃貸借の解除原因となってしまいます(民法第612条第2項)。
そこで、借地権付き建物の売買契約では、賃貸人の承諾を得ることを停止条件とする特約を付けるなど、賃貸人の承諾が得られない場合に、売主の違約とせずに、無償で解除できるようにしておくとよいでしょう。
また、承諾料を支払うことによって、賃貸人から借地権譲渡に関する承諾が得られた場合も、本判決の事案のように、買主との売買契約が買主の違約により解除されて、売買契約の目的が達成できないということも想定されます。
本判決が指摘しているように、売主と買主との間の売買契約と、売主(借地権者)と賃貸人との間の借地権の譲渡承諾に関する合意とは、当事者が異なる別個の合意です。
売買契約が解除されたからといって、当然に譲渡承諾に関する合意の効力が失われることにはなりません。
そのため、借地権付き建物の売買を行う売主や媒介業者としては、
① 売買契約の決済日当日に、賃貸人にも同席してもらい、賃貸人に承諾料を支払って借地料の譲渡承諾書をもらい、その後に買主との間で決済を行う。
② 事前に賃貸人に承諾料を支払い、譲渡承諾書をもらうのであれば、「売買契約が解除された場合は、譲渡承諾は無効となり、賃貸人は賃借人(売主)に承諾料を返還する。
以上のような条件を承諾書に定めておくとよいでしょう。
なお、借地借家法に基づく借地権であっても、地上権に基づく借地権については、設定者(土地所有者)の承諾がなくても、第三者への譲渡ができます。
借地権の多くは、一般的に土地賃貸借契約に基づく借地権であることが多いですが、借地権付き分譲マンション等では、地上権が設定されていることもありますので、注意しましょう。
終わりに

今回は、借地権売買を行うときの譲渡承諾料の返還請求について、お話し致しました。
本件事案で参考にすべき点は、判決の内容にもあるように、譲渡承諾料の支払いに関する合意をするときに、後に本件売買契約が解除される可能性があることも想定できたことであり、その場合に支払済みの譲渡承諾料の返還を求めることができる合意をするなどの対応をしていれば、紛争は回避できたということでしょう。
売主と買主との間の売買契約と、売主と地主の間の借地権の譲渡承諾に関する合意とは、当事者が異なる別個の合意です。
売買契約が解除されたからといって、譲渡承諾に関する合意の効力はなくなりません。
借地や借地権付き建物の売買を行う際には、注意するようにしましょう。
執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。
本件事案で参考にすべき点は、判決の内容にもあるように、譲渡承諾料の支払いに関する合意をするときに、後に本件売買契約が解除される可能性があることも想定できたことであり、その場合に支払済みの譲渡承諾料の返還を求めることができる合意をするなどの対応をしていれば、紛争は回避できたということでしょう。
売主と買主との間の売買契約と、売主と地主の間の借地権の譲渡承諾に関する合意とは、当事者が異なる別個の合意です。
売買契約が解除されたからといって、譲渡承諾に関する合意の効力はなくなりません。
借地や借地権付き建物の売買を行う際には、注意するようにしましょう。
執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。