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相続のキホン – 不動産の相続 –

財産の多くが不動産の場合の相続について

相続は誰しも避けては通れない問題ですが、近年、自筆証書遺言の要件緩和・法務局保管制度の開始、配偶者居住権の創設、相続土地国庫帰属制度の開始、相続登記義務化など、法改正が立て続けにされています。

前回は、経営者にとっての相続対策として、自社株式や事業承継についてお話ししました。
相続人の共有の状態は株式等の議決権の行使に制限ができるため、会社を円滑に運営するという観点からは望ましくありません。
そのため、円滑に事業承継を行うためには、後継者に自社株式を集中させることが基本となります。

数回にわたって相続に関する内容を取り上げましたが、今回で最後となります。
今回は、不動産の相続について、お話し致します。

財産の多くが不動産の場合の相続

たとえば、ある方の財産は、自宅と近くにある賃貸住宅、そして現預金です。
相続人は、2人の子です。

財産:自宅3,000万円、賃貸住宅1億円、現預金3,000万円

自宅と賃貸住宅は、同居している子Aに引き継ぎたいが、そうすると子Bには現預金しか残せません。
子どもがもめないようにするには、どのような方法が考えられるでしょうか。

2人の子がもめないためには、できるだけ法定相続分に近い割合で財産を公平に分ける必要があります。
法定相続分による場合、例えば、次のような方法が考えられます。

1. 子Aは子Bに対して、代償金を支払う方法
2. 賃貸住宅を売却し、現預金で分ける方法
3. 賃貸住宅を共有で相続する方法

また、検討し、決めた分割方法は、必ず遺言書に記載しておきましょう。

代償金を支払う方法

子Aは、子Bに対して、代償金を支払うための多額の資金が必要となります。

子Aが、相続の時点の自己資金で用意できる場合は問題ありませんが、もし代償金の資金が足りない場合は、次のような方法が考えられます。

1. 不動産を担保に金融機関から借り入れを行う方法
2. 賃貸住宅による、家賃収入から代償金を分割で支払う方法。

賃貸住宅を売却し、現預金で分ける方法

賃貸住宅の経営状況にもよりますが、子Aが経営に前向きでない場合や、賃貸住宅の空室が多く、管理が行き届いていないような場合は、賃貸住宅を売却した資金でバランスよく分割することを検討してみましょう。

なお、賃貸住宅の売却によって利益が発生した場合は、譲渡所得税がかかるため注意が必要です。
また、贈与税の課税を避けるために、遺産分割協議書には不動産を換価(売却)して分割する旨を明記しておきましょう。

賃貸住宅を共有で相続する方法

賃貸住宅の所有者として、経営している子Aは、別の他者(子B)の名義が入ることになります。

子Aと子Bの仲が良い間はいいですが、もし仲違いをしてしまったり、さらに相続が発生し、子Bの子や孫が名義人となった場合には、共有名義人の関係性が希薄になり、トラブルが生じやすくなります。

また、賃貸住宅の売却や建て替えをしたい場合には、共有者全員の同意が必要となるため、子Aの賃貸住宅経営に障害が生じる可能性があります。

不動産を共有状態にしてしまうと、後に紛争に発展する可能性が非常に高くなります。
子Aが相続後に困らないよう、不動産の共有状態は避けることが望ましいでしょう。

相続による賃貸経営の引継ぎ

所有する賃貸物件の経営を親族の誰かに引き継いでほしい場合、何から手をつければよいでしょうか。

まずは、後継者を決め、後継者に賃貸物件を引き継ぐ内容の遺言書を作成しましょう。
次に、相続後の賃貸経営に必要となる情報、例えば各種連絡先や支払先などを後継者と共有しましょう。

また、後継者が困らないように、ほかの相続人との調整や税金の支払、遺留分侵害額請求に対応するための資金確保といった対策が必要です。

準備をしなかった場合

相続が発生すると金融機関があなたの口座を凍結します。
そのため、賃貸経営に次のようなトラブルが発生する可能性があります。

1. 賃貸経営に必要となる水道光熱費等の支払いができなくなる。
2. 賃料を適時に受け取れなくなる。
3. ローンの支払いが滞り、最悪の場合は不動産を差し押さえられる。
4. 火災保険料が引き落とされず、保険適用期間に空白ができてしまい、その間に火災等が発生しても補償を受けることができない。

賃貸経営の引継ぎポイント

このような事態が生じないよう、早期に後継者を決定し、後継者に賃貸物件を引き継ぐ内容の遺言書を作成しておきましょう。

また、相続が発生すると、後継者は速やかに次のような手続きをしなければなりません。
情報を共有し、よく話し合っておきましょう。

1. 賃貸事業に関する関係各所(管理会社等)に直ちに連絡
2. 水道光熱費や火災保険の名義変更などの手続き
3. 賃借人に対する所有者変更の通知と振込先口座変更の通知
4. 相続登記、税務申告等の不動産を相続したことに伴う手続
5. ローンが残っている場合は、金融機関へ連絡

後継者を決めていないと、誰が賃貸経営を引き継ぐか、誰が賃貸経営に必要な手続きをするかが早期に定まりません。

また、後継者を決めておいたとしても必要な情報が共有されていないと、後継者が適切なタイミングで対応することができません。

資金確保やローンの引継ぎ

賃貸物件以外にめぼしい財産がない場合は、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受けたり、税金を支払う資金がないなど、後継者が困ってしまうこともあります。
保険に加入するなどして資金を確保するよう対策しましょう。

また、債務(ローン)は各相続人が分割して相続します。
そのため、一人の後継者に賃貸物件と債務を併せて引き継ぎたいと思っても、金融機関が認めてくれない限りできません。

金融機関は、後継者だけが債務者となってもきちんと弁済できるかを審査し、弁済するだけの資力があると判断した場合に、後継者が1人で債務を承継することを認めます。

遺産分割協議によって1人のものが不動産を取得することが決まっても、それまでに発生した賃料収入は、合意がない限り各相続人が分割して取得します。

相続人の1人が善意で管理を行っていた場合には、不公平に感じることがあるほか、管理のために支出した費用が経費として認められるか等について、紛争に発展するケースもあります。

相続した不要な不動産はどうすればよいか

例えば、相続財産の中に聞いたことがない地名の山があり、相続人は、誰もいらないと考えた場合、どうすればよいでしょうか。

山の土地が、もし相続土地国庫帰属制度の要件に当てはまれば、相続をしたうえで山を国に引き取ってもらうことができます。

ただし、山林は境界の確認ができないことが多く、この制度の要件を満たすかどうか、よく確認をしなければなりません。

また、相続放棄をして、山を含むすべての財産を相続しない方法もあります。
その場合は、相続から原則3か月以内に、家庭裁判所への申述が必要です。

相続土地国庫帰属制度とは

令和5年4月27日から、相続した不要な土地を国に引き取ってもらうことができる相続土地国庫帰属制度の利用が始まりました。

一定の要件があり、また負担金の納付が必要ですが、相続などによって土地の所有権または共有持分を取得した人が法務局に申請すれば、その土地の所有権を国庫に帰属することができます。

ただし、次のような土地は国庫に帰属させることができません。
1. 建物がある土地
2. 土地の管理や処分を阻害するものが地上または地下にある土地
3. 担保権や使用収益権が設定されている土地
4. 他人の利用が予定されている土地
5. 土壌汚染されている土地
6. 境界が明らかでない土地
7. 所有権の存否や範囲について争いがある土地
8. 一定の勾配・高さの崖があり、管理に過分な費用や労力がかかる土地

相続放棄の選択

今回のケースでは、相続放棄をすることで、山を含めた全ての財産を承継せずに済みます。

しかし、山以外の相続財産が一定程度ある場合には、相続放棄をしてしまうと、それらの財産を承継する権利も失ってしまいます。
相続放棄をするか否かは、相続財産全体を確認したうえで、慎重に決定しなければなりません。

相続放棄も含め、相続の方法には、次の3つの方法があります。

1. 単純承認
積極財産(現預金など金銭的価値のある財産)も消極財産(借入金等の負債)も含めて、被相続人の全ての財産を相続することです。
負債が積極財産を上回る心配がない場合に、一般的に用いられる方法です。

2. 相続放棄
積極財産も消極財産も含めて、被相続人の全ての財産の承継を拒否し、相続する権利を放棄することです。
また、負債が積極財産を上回る場合や、相続財産の有無が全くわからない場合などに用いられる方法です。

原則として、相続を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
ただし、相続財産の調査が完了しない場合などには、家庭裁判所に申し立てることにより、延長できます。
しかし、相続放棄した場合でも、放棄の時に相続財産を占有している場合には、その管理を続けなければなりません。

3. 限定承認
積極財産も消極財産も含めて被相続人の全ての財産を承継するが、負債について、承継した積極財産の範囲内でしか責任を負わない方法で相続すること。
積極財産や消極財産の額が、正確にわからない場合に用いられる方法です。

相続を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります(相続放棄の場合と同様に申し立てにより延長できます)。
また、限定承認は、相続人全員で行わなければならず、譲渡所得税が課される可能性があるため、選択する際には慎重に検討しなければなりません。


相続人の全員が相続放棄した場合や相続人がいない場合、利害関係人などの申立てにより、相続財産清算人が選任され、選任された相続財産清算人が相続財産を管理します。

相続財産清算人による相続人の調査などによっても相続人が見つからず、また特別縁故者からの申立てもない等の場合、相続財産は国庫に帰属します。

相続放棄や限定承認をしたいと思っている場合であっても、相続財産を使ってしまったり、処分してしまったりした場合には、単純承認したものとみなされ、相続放棄や限定承認をすることができなくなってしまう可能性があります。

うっかり相続財産を使ってしまったり、返済してしまったりしたことで、莫大な負債を負ってしまう可能性もあります。
特に、負債が存在する可能性が高い場合には、相続財産には触れないよう十分に注意しましょう。

配偶者に住まいを残す方法

たとえば、相続人が妻と、前妻の間の子の2人で、財産は自宅と現預金という場合、相続後に妻が自宅から出ていかなければならない心配が考えられます。

この場合、生前にできる対策としては、妻に自宅を相続させる旨の遺言の作成や、妻への自宅の生前贈与が考えられます。
また、遺言で妻に配偶者居住権を遺贈することで、妻を自宅に住み続けさせることができます。

遺言や生前贈与の活用

まず、もしもの時に備えて、妻に自宅を相続させる旨の遺言を作成する方法が考えられます。
ただし、前妻の子の遺留分を考慮しておかなければなりません。

また、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、配偶者へ居住用不動産などを贈与する場合の贈与税については、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円までを控除出来る配偶者控除の特例があります。
この特例を活用し、妻に自宅を生前贈与する方法も有効でしょう。

なお、このような贈与財産は、通常は遺産分割協議で特別受益として持ち戻されますが、民法改正により、一定要件を満たす配偶者への贈与は持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されることとなりました(民法第903条4項)。
もっとも、前もって特別受益の持ち戻し免除の意思表示を書面で行っておくことが望ましいでしょう。

また、遺留分侵害額請求があった場合の遺留分の算定にあたっても、贈与財産の金額が考慮されます。
もっとも、遺留分の算定にあたって考慮される相続人に対する贈与は、相続開始前10年間になされたものに限定されます。

相続後の配偶者の住まいが心配な場合は、婚姻期間20年以上であれば、配偶者への自宅の生前贈与を検討しましょう。

配偶者居住権の活用

令和2年4月1日に施工された民法改正により、相続後の配偶者の居住権を保護するために配偶者居住権が認められるようになりました。

配偶者居住権は、以下を要件として、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が亡くなった人が所有していた建物に、亡くなるまでまたは一定の期間、無償で居住することができる権利です。

1. 残された配偶者が、亡くなった人の法律上の配偶者であること
2. 配偶者が、亡くなった人が単独所有または配偶者と2人で共有していた建物に、亡くなった時に居住していたこと
3. 次のいずれかにより配偶者居住権を取得したこと
①遺産分割 ②遺贈 ③死因贈与 ④家庭裁判所の審判

妻に配偶者居住権が認められる場合。妻と子において、妻の居住権を分け与える遺産分割を行うことができ、妻は自宅に住み続けることができます。

妻に対し、配偶者居住権を承継したいのであれば、遺言で配偶者居住権を遺贈する旨を記載しておくことが望ましいでしょう。
なお、相続させる遺言ではなく、遺贈する旨の遺言である必要があります。

また、配偶者居住権以外にも、残された配偶者が亡くなった人が所有していた建物(ただし、居住部分のみ)に、遺産分割がまとまるまでか、協議が早くまとまった場合でも被相続人が亡くなってから6ヶ月間は無償で住み続けることができる、配偶者短期居住権という権利もあります。

不動産の登記

令和6年4月1日から相続登記が義務化されました。
令和6年4月1日より前の相続については、令和9年3月31日までに相続登記を完了しなくてはなりません。

不動産の名義変更等ができていない場合は、遺言書や遺産分割協議書等がないか確認のうえ、専門家にも相談し、早めに相続登記をしておきましょう。

相続登記の流れ

相続した土地建物について、法務局に申請し、亡くなった人から相続で引き継いだ人へ不動産登記簿の名義を変更することを、相続登記といいます。

相続登記は、一般的に次のような流れで行われます。
1. 相続する不動産を特定し、法定相続人の範囲を確認する
2. 相続人の間で、亡くなった人の財産をどのように分けるかについて協議を行ない、その結果を文書にする
3. 相続登記申請書を作成し、申請に必要な証明書類等を用意する
4. 管轄の法務局に登記申請をする。持参・郵送・オンラインで行う方法があります。

相続登記の義務化

令和6年4月1日以降、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務化されました。

令和6年4月1日より前の相続についても同様で、令和6年4月1日より前に不動産を相続したことを知っていれば、令和6年4月1日から3年以内(令和9年3月31日まで)に、相続登記の申請をしなければなりません。

正当な理由がなく、この義務に違反した場合は、10万円以下の過料の対象となります。

相続登記の申請のためには、亡くなった登記名義人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本等の資料の収集が必要となり、手続きの負担が大きくなります。

そこで、相続登記の義務化に伴い、「亡くなった登記名義人について相続が開始したこと」と、「自らがその相続人であることを申し出ること」で、相続登記の申請義務を行ったとみなす相続人申告登記という新しい登記ができるようになりました。

もし、相続登記の申請に手間や時間を要する場合は、とりあえず相続人申告登記を行っておけば、義務違反の10万円以下の過料の対象とはなりません。

面倒だからと後回しにしないこと

被相続人の不動産の相続登記にあたって、遺言書や遺産分割協議書等がない場合には、法定相続人を調査することになります。

例えば、被相続人に子がなく、父母や祖父母が死亡しているとすれば、法定相続人は兄弟姉妹となります。

被相続人の死亡時点において、兄弟姉妹で死亡している者がいる場合は、その者の子がいれば、その子が被相続人の相続人となります。
なお、兄弟姉妹の子も死亡していた場合、兄弟姉妹の孫は相続人にはなりません。

これに対し、被相続人の相続時点では存命していた兄弟姉妹が、いったん相続分を取得した後に死亡した場合については、兄弟姉妹の法定相続人の孫の代まで調査する必要が生じることもありえます。

このように、被相続人の死亡から年月を経るほどに、相続調査の範囲が広がります。
戸籍を複数回移転する人が含まれていると、戸籍調査のみで数か月を要するという事態も起こり得ます。

さらに、法定相続人の数が増えると、それだけ交渉して協力を得るのも大変になります。
任意の協力が得られない場合、調停や訴訟等の手続きをしなければならない可能性も高まってしまいます。

終わりに

今回は、不動産の相続について、お話し致しました。

平均寿命が延び、高齢でも元気な方が増えた一方で、生活費の消費によって現預金を多く残すことができなくなっています。
そのため、財産の割合の多くが不動産となってしまい、相続人へバランス良く分けることが困難な事態が生じています。

また、負動産といわれるようないらない不動産や、父母が管理をしていた賃貸物件などを準備なく急に相続した場合、さまざまな困難が予想されます。

賃貸物件は、入居者などにも迷惑を及ぼします。
父母に任せきりにせず、早めに相続できる準備を行うように心がけましょう。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。