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相続のキホン – 経営者にとっての相続 –

経営者が相続を考えるポイント
相続は誰しも避けては通れない問題ですが、近年、自筆証書遺言の要件緩和・法務局保管制度の開始、配偶者居住権の創設、相続土地国庫帰属制度の開始、相続登記義務化など、法改正が立て続けにされています。

前回は、相続に関する基本的な注意事項として、遺産分割協議や遺産の特別受益と寄与分、預貯金の払戻しについてお話ししました。
一般の方々にとっては、関わることが多いトピックです。
しかし、会社経営者など、自社株を所有している方はどのように考えればいいでしょうか。

今後、数回にわたって相続に関する内容を取り上げます。
今回は、経営者にとっての相続について、お話し致します。

財産の多くが自社株式の場合の相続

たとえば、会社を経営しているオーナー社長(100%株主)には、相続人として3人の子がいるとします。
長男が会社を引き継ぎたいと考えていますが、オーナー社長である父は遺言書を作成している様子はありません。
この時点で相続があった場合、会社経営はどうなるでしょうか。

現状のままで相続が発生した場合、3人の子で自社株式を共有することになります。
共有の状態は株式等の議決権の行使に制限があるため、会社を円滑に運営するという観点からは望ましくありません。

また、社長個人の負債の額が株式の評価額を上回る場合は、相続放棄をする方法も考えられます。

自社株式の共有状態

先のケースで相続が発生した場合、すべての自社株式を3人の子それぞれの相続分3分の1ずつの割合で共有する状態になります。

これは、仮に自社株式数が90株であった場合、3人がそれぞれ3分の1にあたる30株ずつを所有するという意味ではありません。
1株について3分の1ずつの持ち分で、90株全部を3人で共有する状態になります。

自社株式が共有の状態とは

共有状態が続く間、各共有者は、共有物である株式を勝手に売却することはできません。

また、議決権の行使について株式が共有状態にあるときは、共有者間で代表者を1人決めて、その代表者を会社に通知したうえで、その代表者が株主総会で権利を行使しなければなりません。
各相続人が法定相続分に従って、別々に議決権を行使することはできません。

共有者間で代表者を決めることができない場合、議決権の行使は管理行為に該当することから、持ち分価格の過半数の同意が必要になります(民法252条)。

先のケースでは、3人の子の内の一人が同意しても、ひとりの持ち分は1/3しかなく、過半数には届かないため、残り2人の子のうちのどちらかの同意がないと議決権の行使ができません。

【保存行為・管理行為・変更行為について】
◆保存行為・・1人でできます。
 例:株式の価値を保存して現状を維持するための行為全般

◆管理行為・・各共有者の持分の過半数で決します。
 例:株式の議決権行使

◆変更行為・・全員の同意が必要です。
 例:株式の譲渡

後継者に自社株式を集める

このように、株式の共有状態は、権利行使の際に様々な制約があるため、会社の円滑な意思決定に支障をきたす恐れがあります。

株式の共有状態を解消するために、後継者となる意思がある1人の相続人に自社株式を集めるように遺産分割協議を進めることが望ましいでしょう。

任意交渉が難しい場合、家庭裁判所に対し、すみやかに遺産分割の調停の申立てを行うことになります。

相続人全員が相続放棄をする

1人オーナー会社の代表取締役が死亡したため、唯一の株主である代表取締役の相続について、相続人全員が相続放棄をした場合は、株主が存在しないため、新しい代表取締役を選ぶことができません。

また、代表取締役以外に役員が存在しない場合には、会社としての活動をすることができません。

相続放棄をしたものの、今後も会社を存続させたい場合や、会社を清算したい場合には、裁判所に相続財産清算人を選任してもらい、相続財産清算人から株式を買い取る方法があります。

1人の後継者に自社株式を相続させるためには

相続人には、一定の相続分を保証する遺留分があります。

遺留分を侵害する遺言書自体は有効ですが、後々遺留分を侵害されている相続人から、遺留分侵害額を請求される可能性があります。

後継者に自社株式を集中させる場合、請求に備えて、遺留分額の支払原資があるかどうかを検討しましょう。

また、相続人に、遺留分の放棄をしてもらうという方法もあります。

遺留分を請求できる相続人

遺留分は相続人全員ではなく、相続人のうち、「配偶者」、「直系卑属(子など)」、「直系尊属(親など)」にしか認められていません。

姉妹は相続人にはなりますが、遺留分は認められていません。
具体的には、下記のとおり、遺留分の基礎となる財産に対する遺留分割合と法定相続分により遺留分額が計算されます。


相続人:配偶者のみ
遺留分:遺留分割合2分の1×法定相続分


相続人:配偶者と直系卑属(子など)
遺留分:遺留分割合2分の1×法定相続分


相続人:配偶者と直系尊属(親など)
遺留分:遺留分割合2分の1×法定相続分


相続人:直系卑属(子など)のみ
遺留分:遺留分割合2分の1×法定相続分


相続人:直系尊属(親など)のみ
遺留分:遺留分割合3分の1×法定相続分

遺留分侵害額を請求できる期間

遺留分侵害額を請求できる期間は、「遺留分権利者が、相続の開始および贈与や遺贈があったことを知ったときから1年間」となっています(民法1048条前段)。

また、「相続開始の時から10年間経過したときは消滅する」と定められています(民法1048条後段)。

遺留分の基礎となる財産

遺留分の基礎となる財産は、次のような算式によって計算します。

「遺留分の基礎となる財産」=「相続開始時に被相続人が有していた財産」+「贈与財産の金額」-「相続債務の金額」

なお、上記算式の遺留分の算定の基礎となる「贈与財産」は、相続開始前10年間になされた相続人に対する特別受益に該当する贈与、相続開始前の1年間になされた相続人以外に対する贈与等に限定されます。

遺留分侵害額請求への備え

たとえば、会社を経営しているオーナー社長(100%株主)には、相続人として3人の子(長女、長男、次女)がいます。
財産は、時価で6億円。
内訳は、自社株式5億円、自宅4,000万円、現預金6,000万円とします。
遺言書で、後継者である長女に自社株式を、長男に自宅、次女に現預金を相続させるとあります。

このケースでは、遺留分を請求できる相続人は、先の「相続人:直系卑属(子など)のみ」に該当します。

遺留分は、「遺留分割合2分の1」×「法定相続分」ですので、「財産(6億円)」×「遺留分割合(2分の1)」×「法定相続分(3分の1)」となり、子の遺留分額は、それぞれ1億円となります。

したがって、次のように長男と次女のそれぞれが、長女に対して遺留分侵害額請求をした場合、長男と次女のそれぞれが相続した財産の時価との差額として、長女は長男に6000万円、長女は次女に4000万円を支払わなければなりません。

つまり、長女には合計1億円の遺留分侵害額請求に対する支払い原資が必要となる可能性があります。

遺言書の作成にあたっては、このような遺留分に配慮し、財産の分け方を検討しましょう。

遺留分を放棄してもらう

被相続人が生きてる間に長男と次女に遺留分を放棄してもらう方法もあります。

遺留分を放棄するためには、放棄する相続人が自らの意思で家庭裁判所に申立てを行ない、遺留分放棄の許可を受けなければなりません。

ただし、一度許可を得たとしても、放棄する相続人が自らの意思によらず放棄を行ったと判断された場合、後々遺留分の放棄が取り消される可能性があります。

そのため、被相続人は、放棄する相続人と生前によく話し合い手続きを進めることが大切です。

円滑に事業承継を行うためには

円滑に事業承継を行うためには、後継者に自社株式を集中させることが基本です。

自社株式を集中させる方法としては、「生前の売買または贈与」、「遺言による承継」、「会社法を活用した議決権の集約」などがあります。

また、複数の後継者に事業を引き継ぐ場合には、組織再編を活用する方法があります。

生前の売買または贈与

親族に事業を承継する場合、相続によって自社株式が移転することが多いですが、生前に自社株式を後継者に売却したり、贈与することもできます。

もっとも、遺留分との関係では、贈与した自社株式が遺留分算定の基礎となる財産に含まれる可能性があります。

なお、民法改正により、遺留分算定の基礎となる贈与財産は、相続開始前10年間になされた相続人に対する贈与、相続開始前1年間にされた相続人以外に対する贈与等に限定されています。
遺留分対策のためにも、早めに検討しましょう。

遺言による承継

法定相続による財産の分散を防ぐ方法の1つとして遺言の活用があります。

遺言によって、後継者への株式の集中を行うとともに、株式の共有状態による議決権行使の困難や遺産分割協議を行うことによる混乱を避けることができます。

ただし、遺留分の問題を考慮しておかなくてはなりません。

会社法を活用した議決権の集約

会社法では、一定事項について権利内容が異なる株式(種類株式、会社法第108条)を発行できる制度が設けられているなど、株式および議決権の集約に利用できる様々な仕組みが存在します。

専門家の力を借りて、これらの対策を講じることを検討してみましょう。

複数の後継者がいる場合

会社分割を利用して、オーナーが100%保有する会社の事業を複数に分ける方法があります。

例えば、後継者が2名の場合、会社分割によって新たな会社(Y社)を設立し、元の会社(X社)の事業の一部をY社に移します。
その後Y社は、X社の株主であるオーナーに対し、X社を介してY社株を交付します。

このようにして、1社から2社への会社分割を実行します。
これによって、オーナーは、X社とY社をそれぞれ保有することになります。

あとは、X社の自社株式を子Aに渡し、Y社の自社株式を子Bに渡せば、それぞれ資本関係のない別会社として、2人の後継者に別々に経営させることができます。

組織再編を活用した事業承継対策には、このような会社分割以外にも、合併や株式交換、株式移転を活用するなど、さまざまな手法があります。

終わりに

今回は、経営者にとっての相続について、お話し致しました。

相続人の共有の状態は株式等の議決権の行使に制限ができるため、会社を円滑に運営するという観点からは望ましくありません。
円滑に事業承継を行うためには、後継者に自社株式を集中させることが基本となります。

自社株式を集中させる方法はいくつかあります。
ただし、後継者に自社株式を集中させる場合、遺留分侵害請求に備えて、遺留分額の支払原資があるかどうかを検討しなければなりません。

さて、次回は不動産に関する相続についてお話しします。
そこで、数回にわたって続けてきた相続のキホンについて、終わりとする予定です。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。