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相続のキホン – 基本的な注意事項 –

今さら聞けない注意事項とは

相続は誰しも避けては通れない問題ですが、近年、自筆証書遺言の要件緩和・法務局保管制度の開始、配偶者居住権の創設、相続土地国庫帰属制度の開始、相続登記義務化など、法改正が立て続けにされています。

相続について耳にする機会が増えているため、まったくわからないという人は少ないでしょう。
しかし、わかっているようでも実際に直面すれば、どのようにすればよいかわからないという不安もあるでしょう。

今後、数回にわたって相続に関する内容を取り上げます。
今回は、相続に関する基本的な注意事項について、お話し致します。

遺産分割協議書とは

相続人全員の合意なくして、被相続人の遺産を分割することはできません。

遺産分割協議の合意内容をまとめた書面を遺産分割協議書といいます。
相続人のうち、誰か1人でも遺産分割協議書の内容に同意しなかった(署名押印していない)場合は、その遺産分割協議書は法律上有効な書類としては認められません。

遺産分割協議を行うにあたっては、次のような調査や確認等を行います。

1. 相続人の確定
・・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本等による調査を行います。
2. 遺産範囲の確定
・・預金通帳、固定資産税納税通知書や証券会社からのお知らせなどの郵便物、確定申告書の確認を行います。
3. 遺産の評価方法の確認
・・原則として遺産分割を行う時点を基準に総遺産の経済価値を評価します。

遺産分割協議書の内容を確認せずにあるいは、内容に納得していないにもかかわらず、署名押印する必要はありません。
必ず遺産分割協議書全体に目を通し、納得できる内容かどうかを確認してから署名押印するようにしましょう。

遺産分割協議が整わない場合

遺産分割協議が整わない場合は、遺産分割調停に移行します。

一部の相続人が作成した遺産分割協議書の内容が不明確であったり、内容に納得がいかなかった場合は、遺産分割協議書に同意をしないことも考えられます。
この場合は、遺産分割調停で、遺産分割について自分の意見を具体的に主張しましょう。

なお、遺産分割調停でも合意に至らない場合は、遺産分割審判の手続きに移行します。

また、遺産範囲に争いがある場合は、遺産確定の訴え(遺産確認訴訟)を提起します。

遺産分割協議の期限は10年間

令和5年4月1日に施行された法改正により、後述する特別受益と寄与分の主張が、相続開始時点から10年以内に制限されることが定められました。

そのため、相続開始時点から10年が経過すると、遺産分割協議が成立した場合を除き、法定相続分によって遺産が分割されることとなります。
未分割の状態が長期間継続することは、二次相続が発生するなどのリスクがあり、ほかの相続人等に対し協議を働きかけたり、10年以内に遺産分割調停の申し立てを行うことが推奨されます。

なお、法改正の施工日は令和5年4月1日ですが、施工日より前に被相続人が死亡していた場合にも効力が及びますので、注意しましょう。

具体的には、以下までに相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしなければ、特別受益と寄与分の主張はできません。

1. 令和5年4月1日に相続開始から既に10年が経過している場合
→ 令和5年4月1日から5年の経過時点が基準
・・令和10年4月1日以降は、特別受益と寄与分を主張できません。

2. 相続開始から10年を経過するときが、令和10年4月1日よりも"前に"到来するケース
→ 令和5年4月1日から5年の経過時点が基準
・・令和10年4月1日以降は、特別受益と寄与分を主張できません。

3. 相続開始から10年を経過するときが、令和10年4月1日よりも"後に"到来するケース
→ 相続開始から10年の経過時点が基準
・・相続開始から10年経過した日以降は、特別受益と寄与分を主張できません。

特別受益と寄与分

民法では、相続人間の公平を図るために、遺産分割における計算上、遺産の先渡しを考慮できる場合があります。
これを、特別受益といいます。

また、被相続人の療養看護等に努めた者への利益の分配などを考慮できる場合があります。
これを寄与分といいます。

それ以外にも、被相続人の親族が無償で療養看護等を行っていた場合、特別寄与料の支払いを請求することができる場合があります。

特別受益とは

特別受益とは、遺贈のほか、婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として、被相続人から共同相続人に贈与された金銭などをいいます。

例えば、婚姻の際の持参金・支度金や大学の学費・入学金などが特別受益に該当する場合があります。
(ただし、大学の学費入学金については、被相続人の資産状況や社会的地位に照らして、子に対する扶養の範囲内にあたるか否かを検討し、この範囲を超えた場合に特別受益と評価されます。)

寄与分とは

寄与分とは、相続人の中に被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について、特別の寄与をした者に認められるものをいいます。

以前は、相続人でない者は、遺産分割において寄与分として自らの寄与について利益の分配を主張することができませんでした。

しかし、民法の改正により、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をしていた、という要件を満たせば、相続人でない親族であっても、相続人に対し特別寄与料の支払いを請求できるようになりました。

ただし、請求は、相続開始および相続人を知った時から6か月以内(または相続開始の時から1年以内)にする必要があります。

どの程度貢献すれば請求が認められるかについては、個別具体的な事情を考慮したうえで判断されます。

遺産分割は10年以内

特別受益と寄与分のいずれも被相続人が亡くなった時から十年が経過した後は原則適用がなくなります
特別受益や寄与分を主張できるものの、協議が整わなかった場合は、十年以内に家庭裁判所に対し遺産分割請求を行ない、その中で視聴するようにしましょう。

持戻し免除

特別受益に該当すると判断されると、相続財産額に特別受益を加算することになります。
(相続財産額に特別受益を加算することを、持戻しといいます。)
特別受益は、もともと被相続人の意思による財産処分であることから、被相続人の意志による持戻しの免除が認められています。

持戻しの免除の意思表示を行ないたい場合には決まった方式はありませんが、「生前贈与契約を締結し、その契約において持戻し免除の意思表示を記載しておく方法」、もしくは「過去の生前贈与と遺言に明記し、持戻し免除の意思表示を記載しておく方法」が考えられます。

なお、この意思表示は、自由に撤回することができます。

預貯金の払戻し制度

生活費などを遺産分割前に引き出す必要がある場合、預金の払戻制度を利用することができます。

各相続人は、相続預貯金のうち、口座ごと(定期預金の場合は明細ごと)に以下の計算式で求められる額は、家庭裁判所の判断を経ることなく、金融機関から単独で払い戻しを受けることができます。

【計算式】
「相続開始時の預貯金額」×「3分の1」×「払戻しを受ける相続人の法定相続分」
※ただし、同一の金融機関からの払い戻しは150万円が上限です。

預貯金の払戻し制度を利用しても不足がある場合は、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申し立てることを前提に、家庭裁判所の判断により払戻しができる制度もあります(家事事件手続法の保全処分の要件緩和)。

参考:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)【法務省】

参考:遺産分割前の払戻し制度について【法務省】

銀行口座の凍結

銀行に対し、被相続人が死亡したことを伝えると、預金口座は凍結され、口座から自由に出金できなくなります。
そのため、被相続人が死亡した後に必要になる費用を、あらかじめ手元に置いておくようにしましょう。

なお、被相続人名義の預貯金は、遺産分割の対象となる財産です。
そのため、遺産分割を行うまでの間は、共同相続人全員の同意を得なければ、単独で銀行に対し預貯金の払い戻しを求めることはできません。

被相続人と家計を同一にしており、生活費も同じ口座で管理している場合は注意しなければなりません。

相続があったときの手続き

相続が発生した場合には、被相続人の死亡に伴う各種届出などから、3か月以内の相続放棄などの期限、4か月以内の所得税の準確定申告、10か月以内の相続税の申告に至るまで、多くの手続きが必要です。

あらかじめこれらを確認しておきましょう。

【7日以内】
1. 死亡診断書の取得
2. 死亡届の提出
3. 死体火葬許可証の取得

【10日~14日以内】
1. 年金受給停止の手続き
2. 国民健康保険証の返却
3. 介護保険の資格喪失届
4. 世帯主の変更届

【1ヶ月~2ヶ月以内】
1. 遺言書の検索・検認
2. 相続人の確定
3. 故人の財産調査
4. 遺産分割協議
5. 遺産分割協議書の作成
6. 不動産の名義変更登記
7. 葬祭費・埋葬料の請求
8. 高額医療費の申請
9. 死亡保険金の請求

【3か月以内】
1. 相続放棄または限定承認
2. 相続の承認または放棄の期間の伸長

【4か月以内】
1. 故人の所得税の準確定申告

【10か月以内】
1. 相続税の申告

【1年以内】
1. 遺留分侵害額請求

相続税の申告期限は10か月以内です。
もし特段の理由がなく、申告せずに放置した場合は、無申告加算税や延滞税が請求されます。
遺産分割協議が調っていないときは、いったん法定相続分に基づいて申告しましょう。

相続人がいない「おひとり様」の相続

相続人がいない場合には、遺言書を作成し、遺産の行方を決めておくことや、葬式などの死後事務に関する委任契約を締結しておくこととよいでしょう。

また、認知症などによる判断能力の低下には、充分な判断能力がある時点で、任意後見契約を締結しておくなどの対策をしておくとよいでしょう。

後見人を決めておく

本人の判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ後見人となってくれる人(任意後見受任者)との間で、将来、判断能力が不十分になった場合に財産管理や身の回りの事務を行うことを委任しておく契約のことを、任意後見契約といいます。

任意後見契約は、公正証書によって作成しなければなりません。
本人の判断能力が低下するまでは、自分で財産の管理などを行ない、本人の判断能力が低下した時点で、家庭裁判所によって任意後見人の事務を監督する人(任意後見監督人)が選任され、任意後見人による事務が開始されます。

なお、法定後見制度(後見、補佐、補助)では、家庭裁判所が成年後見人を選任しますが、本人や申立人が希望する者が後見人として選任されるとは限りません。
そのため、後見人として信頼できるものを指定しておきたい場合は、あらかじめ判断能力がある間に任意後見契約を締結しておくとよいでしょう。

遺言書の作成

相続人がおらず、遺言書を作成していない場合は、被相続人の財産は国庫に帰属することになります。

そのため、相続人がいない場合には、生前判断能力を有する間に自らの意志に従い遺言書を作成し、誰に遺産を遺贈するかを定めておくことによって、自分の希望する者に遺産を承継させることができます。

なお、相続人がいない場合の遺言の方式は、公正証書遺言または自筆証書遺言を法務局に保管しておく方法がよいでしょう。

死後の手続きの委任

あらかじめ、信頼できる人に対し、自身の死後事務について委任することを内容とする契約を、死後事務委任契約といいます。

遺言で定めることができる事項は民法で定められているため、それ以外の事項(付言事項)を遺言に記載しても法的な拘束力はなく、その内容を実現してもらえるとは限りません。

死後事務に関する事項は法定遺言事項ではないため、死後に生じる様々な手続き等に自らの意思を反映したい場合は、遺言は別に死後事務委任契約を締結して、死後事務を委任しておくとよいでしょう。

なお、死後事務委任契約の作成にあたっては、遺言書の付言事項との間に矛盾が生じないように留意しましょう。

終わりに

今回は、相続に関する基本的な注意事項について、お話し致しました。

ここで取り上げた、遺産分割協議や遺産の特別受益と寄与分、預貯金の払戻しは、相続に直面したときにただちに直面したり考えられたりする事項です。

相続が発生した場合には、被相続人の死亡に伴う各種届出などから、3か月以内の相続放棄などの期限、4か月以内の所得税の準確定申告、10か月以内の相続税の申告に至るまで、多くの手続きが必要です。
これらを確認して、遅れがないように進めていかなければなりません。

また、おひとり様の相続という方もいらっしゃるでしょう。
特に、会社経営をされていたり財産がある方は、元気なうちに対策をしておくことが望まれます。

次回も引き続き、相続のキホンについて、お話し致します。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。