西中島南方駅より徒歩7分の不動産会社

BLOG ブログ

相続のキホン – 遺言について –

遺言について

相続は誰しも避けては通れない問題ですが、近年、自筆証書遺言の要件緩和・法務局保管制度の開始、配偶者居住権の創設、相続土地国庫帰属制度の開始、相続登記義務化など、法改正が立て続けにされています。

相続が「争族」にならないように、遺言書の作成を筆頭に事前に準備できることがあります。
早めに検討し、対策を行うことが望ましいでしょう。

今後、数回にわたって相続に関する内容を取り上げます。
今回は、遺言について、お話し致します。

遺言書があるときとないときの違い

遺言書がある場合は、原則として遺言書の内容どおりに財産が相続されます。

一方、遺言書がない場合は、相続人の間で、亡くなった人である被相続人の財産をどのように分けるかについての話し合いが必要です。
そのため、時間や手間がかかります。

遺言書があるとき

被相続人は、遺言によって自己の財産を処分することが認められています。
そのため、遺言書がある場合、原則としてその内容のとおりに相続手続きが進められます。

ただし、兄弟姉妹以外の相続人については、その生活保障を図るなどの観点から遺留分があります。
遺留分とは、最低限の取り分を確保する制度です。

遺留分に配慮した遺言書を作成しておかないと、残された家族が揉める可能性があります。

例えば、遺言書に「すべての相続財産を長男に相続させるといった」記載があったとしても、長男以外の相続人は、長男から遺留分を取り戻すために遺留分侵害額請求をすることができます。

遺言書の探し方

一般的には、自宅で自筆証書遺言を保管しているケースが多いと考えられます。
まずは、自宅の金庫や机の引き出しなどを探してみましょう。

自宅にない場合は、銀行の貸金庫や第三者に預けているケースもあります。
また、法務局に遺言書を保管できる制度がありますので、法務局にも確認してみましょう。

なお、公正証書遺言の場合、遺言書の原本は公証役場で保管されています。
公証役場で遺言公正証書の有無および保管公証役場を検索することができます。

遺言書がないとき

民法に規定された相続人(法定相続人)全員で、法定相続分を参考に遺産分割協議を行うこととなります。

なお、相続財産のうち、預貯金、不動産、有価証券などは、遺産分割協議の対象となります。
一方で、遺産分割を必要としない財産、金銭債務や損害賠償請求権などもあります。

常に法定相続人となるのは、被相続人の配偶者です。
配偶者以外の法定相続人には優先順位が定められており、最上位の者だけが法定相続人となります。
第一順位は子、第二順位は父母、第三順位は兄弟姉妹です。

※子が死亡している場合は「孫」が第一順位、父母が死亡している場合は「祖父母」が第二順位、兄弟姉妹が死亡している場合は「甥・姪」が第三順位となります。

法定相続分について

法定相続分は、配偶者がいる場合と配偶者がいない場合で異なります。

【配偶者はあるが、子または直系尊属または兄弟姉妹がいない場合】
相続人が配偶者だけの場合は、配偶者が100%相続となります。

【第一順位】
配偶者と子がいる場合は、配偶者が2分の1、子が2分の1相続となります。
子が複数人いる場合は、均等配分されます。

【第二順位】
子がいない場合で、配偶者と父母など直系尊属がいる場合は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1相続となります。
直系尊属が複数人いる場合は、均等配分されます。

【第三順位】
子と直系尊属がいない場合で、配偶者と兄弟姉妹がいる場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1相続となります。
兄弟姉妹が複数人いる場合は、均等配分されます。

【配偶者がいない場合】
配偶者がいない場合は、子または直系尊属または兄弟姉妹が、順位が高い者が100%相続します。
同順位の相続人が複数人いる場合は、均等配分されます。

遺言の種類と違いについて

遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
会社経営者や不動産オーナーなど財産の多い方は、相続トラブルを予防する効果が最も高い公正証書遺言が望ましいでしょう。

参考:公証事務 遺言【日本公証人連合会】

3種類の遺言方式

3種類の遺言方式について、簡単に説明します。

自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書全文、日付および氏名を、自署押印して作成する遺言です。

公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に口頭で伝え、公証人がこれを筆記して、公正証書による遺言書を作成する遺言です。

秘密証書遺言とは、遺言者が遺言内容を秘密にして遺言書を作成したうえで、封印した遺言書者の存在を明らかにする遺言です。

秘密証書遺言は、遺言証書の存在を公証人に証明してもらうだけのものです。
遺言書は自身で保存しなければならず、費用がかかるうえに、遺言書を紛失するリスクがあります。
そのため、実務では秘密証書遺言の方式で遺言を作成する人は少なく、自筆証書遺言か公正証書遺言の方式で遺言書を作成する人が大半です。

どの方式の遺言が良いか

自筆証書遺言は、法務局保管の場合であっても、遺言内容の確認を受けられないことから、遺言書の内容が無効になるリスクは避けられません。

一方、公正証書遺言は、公証人が遺言者の真意を確認したうえ、遺言内容に関与して作成するため、遺言書が無効になりにくいです。

したがって、相続開始後に遺言書の無効を主張されるリスクを減らすことができる公正証書遺言の方式で作成することが望ましいでしょう。

なお、自筆証書遺言は、承認が不要で、遺言者本人が作成します。
特徴として、法務局保管の場合と、法務局保管以外の場合があります。

法務局保管の場合は、遺言書は法務局に保管され、偽造や改ざんされる可能性が低くなります。
公正証書と比較して、費用を抑えることができます。
また、家庭裁判所の検認が不要です。
ただし、法務局で遺言書の内容・遺言能力の有無の確認を受けることができないため、遺言書が無効とされる危険性があります。

法務局保管以外の場合は、保管場所に決まりは特にありません。
誰にも知られずに遺言書を作成することができます。
内容のみならず、その存在も隠しておくことができます。
遺言書作成の手数料がかかりません。
ただし、方式不備で遺言書は無効とされる危険性があります。
また、遺言書が発見されない危険性や偽造・改ざんされる危険性があります。

公正証書遺言は、2人以上の証人が必要で、公証人が作成します。
家庭裁判所の検認が不要です。
専門家である公証人関与のもと作成するため、方式・内容の不備による事後的紛争を回避できます。
また、遺言書は公証役場に保管されますので、偽造改ざんされる危険性が低いでしょう。

ただし、遺言書作成の手数料など費用がかかります。
遺言書作成に当たって、公証人と調整するための準備期間も必要です。

自筆証書遺言の要件緩和

自筆証書によって遺言をするには、遺言者がその全文、日付および氏名を自書し、押印する必要がありました。
しかし、民法改正により、自筆証書遺言を作成する場合、自筆証書と一体のものとして、相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、財産目録の自書が不要となりました。

具体的には、パソコンなどで作成した財産目録、預貯金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書のコピーなどを、自筆証書遺言に添付することで自書を省略することができます。

もっとも、自書によらない財産目録を自筆証書遺言に添付する場合、財産目録の各ページに署名押印(財産目録の記載が紙の両面にある場合は両面に署名押印)をする必要があり、署名押印のない財産目録を添付した場合は、遺言の全部または一部が無効になるため注意が必要です。

遺言書作成のポイント

専門家が関与していない遺言書で、よくある注意点として3つあげられます。
1つ目は、遺言執行者の指定。
2つ目は、相続財産の特定。
3つ目は、法定遺言事項(遺言で定めることができる事項)の把握。

できるだけ早めに遺言書を作成しておくことが大切です。

遺言執行者の指定

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な事務処理を執行する者です。

遺言執行者になるための資格などは特に不要ですので、遺言者の配偶者等相続人の中から選任することもできます。
ただし、未成年者や破産者は除きます。

遺言執行者の選任は法律上義務付けられているわけではありませんが、遺言執行者は、ほかの相続人の同意を得ることなく相続手続きを行えるため、相続手続きを円滑に進めることができるメリットがあります。

また、相続人は、遺言執行者がいる場合、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません。
そのため、相続人のうちの1人がほかの相続人に無断で相続財産を処分した場合などのトラブルを防ぐことができます。

相続財産の特定

遺言書が無効となるリスクを避け、相続手続きを円滑に進めるためには、相続財産の正確な特定が必要です。

例えば、「遺言者は、遺言者が有する先祖代々受け継いできた土地を遺言者の長男Aに相続させる」としては、「先祖代々受け継いできた土地」がどの土地を指すのか不明確です。
そのため、所在や地番、地目、地積等を特定して、記載しなければなりません。

また、遺言書に記載のない財産にも注意が必要です。
相続人は、被相続人が死亡した時点で有していた一切の財産を承継します。
一方、遺言書は遺言者死亡前に作成されることから、遺言書に記載のない財産が相続財産となることがあります。

この場合、相続人はその財産について遺産分割を行う必要があり、相続人に負担をかけるほか、遺言者の意に沿わない遺産分割がなされる可能性があります。

例えば、「本遺言書に記載がない財産が判明した場合、遺言者の長女Bに相続させる。」などと、記載しておきましょう。

法定遺言事項(遺言で定めることができる事項)

遺言書に記載することで法的効力が与えられる事項は民法で定められており、これを法定遺言事項といいます。

これ以外の事項(付言事項)を遺言書に記載したとしても、法的効力は認められません。
ただし、遺言者が遺言書を作成した経緯や遺言者の意思、相続人への感謝の気持ちを自由に記載して相続人に伝えることで、円満な相続につながることがあるでしょう。

【法定遺言事項の例】
1. 相続分の財産
2. 遺産分割方法の指定
3. 相続人の廃除
4. 包括遺贈、特定遺贈
5. 遺言執行者の指定
6. 特別受益の持戻しの免除

遺言書は早めに準備しよう

遺言者が認知症などを患っていた場合は、遺言書作成時に遺言能力がなかったとして、相続人が遺言書の無効を主張するリスクが生じます。

遺言者は遺言を何度でも撤回することができますので、遺言能力に問題が生じないうちに、早めに遺言書を作成しておきましょう。

なお、遺言能力がある状態で遺言書を複数作成した場合は、作成日付が新しい遺言書が有効な遺言書として扱われます。

デジタル遺産のトラブル

デジタル遺産は、ネット証券口座や電子マネー、ネット銀行口座、暗号資産(仮想通貨)などの、被相続人が所有するパソコンやスマートフォンなどの電子機器に保存されたデジタル形式の財産をいいます。

デジタル遺産は財産的価値がある以上、相続財産として相続人に相続されることになりますが、電子機器で利用保存され、実体がなく目に見えないものであるため、「相続人がその存在に気付かない」、「デジタル遺産の存在に気づいても、電子機器のパスワードがわからずデジタル遺産にアクセスできない」などの問題が生じます。

このような問題を解消するために、遺言書とは別に電子機器のパスワード、デジタル遺産にアクセスするためのIDなどをまとめたメモ等を作成し、保管場所を相続人に伝えることが望ましいでしょう。

終わりに

今回は、遺言について、お話し致しました。

遺言は、遺言者本人だけではなく、相続人にとっても大変気になるものです。
遺言者が遺言書を作成した経緯や遺言者の意思、相続人への感謝の気持ちを自由に記載して相続人に伝えることで、円満な相続につながることがあるでしょう。

しかし、その遺言がしっかりとしたものでなければ、余計なトラブルを生じさせることになりかねません。
近年ではデジタル遺産のトラブルも懸念されており、対策することが増えています。
そのためには、できるだけ早めに検討し、対策を行うことです。
相続が発生した以上は、事後的に対応するよりありません。

次回も引き続き、相続のキホンについて、お話し致します。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。