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不動産保有会社を活用した相続対策

不動産を保有する会社の株式を相続
前回から、数回にわたって不動産活用のための会社設立について取り上げております。

土地所有者を中心とする資産家の方々は、本格的に手を打たなければ次第に資産を承継することが困難になるでしょう。
そこで、個人の賃料収入からわずかな管理料を受け取ることしかできない旧来型の不動産管理会社ではなく、収益を生み出す不動産を会社が直接所有する不動産保有会社を目指すことが考えられます。

不動産を次の世代へ相続するためには、不動産そのものを相続するよりも、不動産を保有する会社の株式を相続する方がスムーズに進めることができます。
ただし、法人化による相続税節税を実現するためには、計画的な財産移転が必要です。
今回は、不動産保有会社を活用した相続対策について、お話し致します。

会社への財産移転と株式としての相続税

会社に不動産などの財産を移せば、個人に相続税がかからなくなるのでしょうか。

売却する場合は売却資産、株式に形を変えるならば会社の規模や財産割合により、それぞれ異なる基準で評価された同族会社の株式が、相続税の課税対象になります。

同族会社の株式も相続税の対象

個人の財産を会社名義にしてしまえば、自分の財産がなくなり、相続税がかからなくなるという考えは間違いです。
会社に対して売却するならば、時価相当額の売却資金が手元に入ってくることになるため、相続財産が減少するわけではないため、即効性の相続税対策にはなりません。
長期間保有している不動産の場合には、かえって譲渡所得税がかかることもあるため、要注意です。

一方、現物出資や自然発生借地権、将来の高収益などにより上手に財産を会社に移転することができたときには、会社を活用した効果的な相続税対策となります。
ただし、この会社の株式という新たな財産に対し相続税がかかってきます。

会社の規模によって評価方法が異なる

同族会社株式といっても多種多様です。

そこで「財産評価基本通達」では、同族会社を従業員数、総資産価額(帳簿価額)、取引金額(売上高)によって、大会社、中会社(大・中・小)小会社に分類し、それぞれについて異なる方法で評価することとしています。

まず、会社の大きさを従業員数で区分します。
次に、判断基準になる総資産価額とは帳簿価額ですから、土地や株式にかかる含み損も含み益も評価換えしないままの、課税時期の直前に終了した事業年度の末日(直前期末)における評価会社の各資産の帳簿価額の合計額によります。

取引金額は、直前期末の損益計算書に表示されている直前期の事業場の収入金額(売上高)によります。
この場合の事業上の収入金額とは、評価会社の目的とする事業にかかる収入金額をいいます。

会社の規模による区分

評価会社が、大会社か、中会社か、または小会社に該当するかは総、資産価額、従業員数および取引金額を判定基準とし、その営む業種の別によって定められています。

大会社の評価方法は、原則として上場会社を基準とした類似業種比準方式ですが、純資産価額の方が低ければ純資産価額方式になります。

中・小会社の場合は、類似業種比準価額と純資産価額の両方を採用する併用方式です。
この併用方式は、それぞれの方式により評価した価額に一定の割合を加味して求める方法です。
ただし、純資産価額の方が低ければ、純資産価額で構いません。

不動産保有会社の純資産価額の評価

中小会社を評価する基準となる純資産価額の評価方法は、不動産は路線価や固定資産税評価額により計算します。

賃貸物件は借地権や借家権を考慮しますので、評価が減少します。
なお、評価益に対しては37%の法人税等相当額が控除され有利となります。

純資産価額は相続税評価額で算出

一般的に資産家や地主が設立する不動産保有会社は、従業員数や資産利益はそれほど大きいことはないため、ほとんどの場合が小会社と考えられます。
これらは上場会社とは大きく形態が異なるため、原則として純資産価額方式によって評価します。

この基準となる純資産価額方式とは、その会社が持っている純資産価額から株価を判定する方式です。
この場合の資産価額は帳簿価格ではありません。

資産はすべて、負債も含めてその時の時価で評価しなければなりません。
この時価ですが、株価評価も個人の場合と同じで、相続税や贈与税のための相続税評価額によります。

土地ならば、路線価方式か倍率方式、建物なら固定資産税評価額を基準にし、上場株式の場合には3ヶ月間における月平均の最安値などで評価することになります。

含み益と含み損

純資産価額の場合、資産・負債の帳簿価額を相続税評価額に応じて評価し直します。

含み益の大きい土地や株式などを所有していると、帳簿価額より評価額が高いため会社の株価が上がります。

反対に、含み損のある土地や株式などを所有していたり建物を新築すると、帳簿価額より評価額が低いため株価が大きく下がることがあります。

含み益37%の控除

純資産価額の評価を計算する場合には、相続税評価額が帳簿価額より高いときにはその評価差額、つまり資産の含み益に対してかかる税金を負債として計上し、資産から控除することになっています。

この税金のことを、評価差額に対する法人税等に相当する金額といいます。
この税率は、会社が解散した場合にかかる法人税と住民税の税率の合計で37%となっています。

類似業種比準との併用方式

小会社の株式評価についても、納税義務者の選択により、割合を0.5として類似業種比準価額と純資産価額との併用により計算したときには、その計算した金額によって評価することができます。

歴史は長いが利益率は高くなく、かつ含み益のある財産を持っている会社の場合には、一般的には類似業種比準価額による評価額の方が低くなり、この併用方式の方が有利でしょう。

これらの点で考えるなら、値上がりしている不動産等の場合には、会社で所有すれば値上がり益の37%が控除されるうえ、内部留保の多い会社で純資産価額より類似業種比準価額の方が低い場合には、株価を併用できます。

会社が不動産を所有することは、効率の良い相続税対策となります。

長期視点としての会社活用

賃貸不動産を取得することは、大きく相続税評価額を下げることになります。
ただし、負担付贈与をしたり、長期間経過した場合には効果はあまり期待できません。

会社を活用すればこれらの効果を確保できますが、3年縛りの規制があることに注意しましょう。

個人は取得してすぐに相続税評価できる

相続や贈与のときに税金の対象となる評価額は、土地の場合は路線価方式および倍率方式により評価した額となり、建物の評価額も固定資産税評価額によることができます。

この不動産が賃貸物件であるなら、土地は貸家建付地、建物は貸家として評価されますので、相続税評価はなお下がります。

土地は取引価格と比較するとおよそ20~30%評価が下がり、建物は建築価額の40%程度の評価となることが多いようです。

この評価差額を利用して相続税対策をする人が多かったため、以前は3年間は取得価格で評価しなければならなかったのですが、今では取得してすぐに相続税評価により評価できます。

個人地主にとっては、取得さえできれば相続税対策の効果の高い方法です。

同族会社の株式も相続税の対象

様々な規制の結果、現在は負担付贈与をする場合には、不動産は時価で評価しなければなりませんが、会社の株式を評価するときにはこの規制はありません。

例えば、親が出資して会社を設立します。
設立時の会社の株価は現金と同じですが、会社の資金を利用して賃貸不動産を取得すれば、株価が大きく下がることになります。

会社を活用すれば、負担付贈与の手法が今でも使えるでしょう。

課税時期3年以内の取得は取引価額で評価

注意しなければならないのは、個人と違って自社株式を評価するにあたって純資産価額を計算する場合に、その会社が納税時期前3年以内に取得(新築を含む)した土地等または家屋等を所有しているときは、その土地等または家屋等の価額は通常の取引価額により評価しなければならないという規制が残っていることです。

この規制があるため、取得してから3年間は、この節税メリットは効果がないことに留意してください。

自社株式の贈与

株式の贈与は、実態としては現金→不動産→株式という形で贈与したのと同じ効果があります。

株式で贈与すると、不動産の登記料などの手数料登録免許税、不動産取得税などの税金がかかりませんし、贈与税の負担が軽くなるように細かく分散して贈与することも簡単にできて効果的でしょう。

長生きしても会社活用で相続税対策

借入金による賃貸物件の取得に伴う相続税対策効果は、借入金の返済や賃料収入の蓄積により、時間の経過と共に効果が減少していきます。

ところが会社の株式の場合には、賃貸物件取得による効果が高いうちに株式を贈与することにより、効果を確定することができます。

長生きしても税金効果の心配がいらない安心のプランでしょう。

相続税の申告期限から3年以内の売却による取得費加算

相続税を払うために延納しても、その利子は所得税の計算上経費にはなりません。
次世代の相続税対策も兼ねて、相続した不動産を会社が借入金により取得し、相続人が売却代金で相続税を払ってしまうと良いでしょう。

延納の利子は経費にならない

相続税の延納の利子については、不動産事業に直接要する費用ではないため、所得税の計算上必要経費にはなりません。

相続税額が多額の場合、延納利子も多額になります。
せめて利子が所得税の経費になると、資金繰りが楽になるでしょう。

このようなケースでは、相続した高収益の不動産を同族会社に売却する手法が考えられます。
相続財産とはいえ、会社にとってはあくまでも不動産の購入となりますので、そのための借入金の利息は業務上直接要した費用として損金に算入できます。

また、相続人から見れば、相続した不動産を同族会社に売却した代金により相続税を納税できますので、物納で土地を手放したり延納したりする必要がなく、利子を支払わなくてすむ合理的な方法です。

相続税の一部が譲渡資産の取得費になる

相続した高収益の不動産を同族会社に売却する手法を行うときには、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例という、特例を使うことができます。

この特例は、相続税の申告期限から3年以内に土地を譲渡した場合には、土地等の譲渡所得税を計算する際に、支払った相続税のうち全体の相続財産に占める譲渡した土東の評価額の割合に相当する部分を取得費に加算して譲渡所得税を計算するものです。

譲渡先に制限がありませんので、相続開始後に土地等を少ない負担の譲渡所得税で同族会社に譲渡することができます。

会社が不動産を時価で購入

会社がこのような方法で不動産を購入した場合、借入金を返済しなくてはなりません。

そのためには、その会社がある程度の利益を出している必要があり、利益を出していれば次のような手段で会社が不動産を時価で買い取ることができます。

1. 同族会社は金融機関などから相続で取得した土地の購入資金を借り入れます。

2. 同族会社は、その借入金で相続不動産を相続人から時価で買い取り、相続人はその不動産売却で得た資金で相続税を納めます。

3. 相続人の土地売却に伴う税金は、相続税の取得費加算の適用により譲渡課税額が大きく軽減されます。
また、建物譲渡に伴い、大きな利益を生ずることは考えにくいでしょう。

4. 会社は借入金を収入で返済します。借入金利子は法人税法上損金算入できます。

5. 元利返済金と収入が一致しなければ成り立ちません。会社に収益が残る良質な不動産を移転します。

6. 収入が不足している場合は、ほかの賃貸建物など高収益物件を別途会社に売却します。

7. 賃貸建物の敷地が個人の所有の場合には、借地権や治安の問題があります。

8. 会社がこの不動産購入資金を調達できるかどうかが対策の要です。
どうしても困難な場合には、同族間の貸し借りで客観的に証明できる方法を考えなければなりません。

9. 会社は購入後、借入金返済資金を捻出するために役員給与を減額する等の方法で、結果的に延納と同じ効果が生まれ、支払利息も経費にすることができます。

10. 相続税負担の重い不動産を会社に移転することができます。次世代の相続税対策がしやすくなります。

終わりに

今回は、不動産保有会社を活用した相続対策について、お話し致しました。

課税時期3年以内の取得は取引価額で評価しなければならず、法人化による相続税節税を実現するためには、計画的な財産移転が必要です。

ただし、会社の株式の場合には、賃貸物件取得による効果が高いうちに株式を贈与することにより、効果を確定することができます。
株式で贈与すると、不動産の登記料などの手数料登録免許税、不動産取得税などの税金がかかりませんし、贈与税の負担が軽くなるように細かく分散して贈与することも簡単にできて効果的でもあります。

なお、記事の内容は、掲載時点の法令・情報に基づいています。
そのため、最新の法令や情報のご確認をお願い致します。

また、税金の内容によっては、非税理士により行うことが禁止されている税理士業務に抵触する可能性があります。
具体的なご相談は、必ず税理士や税務官公署等にお願い致します。

これまで、不動産活用のための会社設立についてお話ししてきましたが、次回が最後です。
次回は、不動産保有会社の活用事例について、お話しします。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。