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個人所有の土地と不動産保有会社について

不動産保有会社が個人から土地を借りた場合
前回から、数回にわたって不動産活用のための会社設立について取り上げております。

土地所有者を中心とする資産家の方々は、本格的に手を打たなければ次第に資産を承継することが困難になるでしょう。
そこで、個人の賃料収入からわずかな管理料を受け取ることしかできない旧来型の不動産管理会社ではなく、収益を生み出す不動産を会社が直接所有する不動産保有会社を目指すことが考えられます。

不動産管理会社などを作っても、その利用方法を間違ったために、相続税対策や所得税対策の効果がなかったり、場合によっては逆効果になるケースがあります。
相続税額所得税の節税効果の試算とねらいを明確にしたうえで、実行しなければなりません。

さて、不動産保有会社が建物を所有し活用する場合、土地を個人から貸借することになります。
このようなケースについて、どのように考えればいいでしょうか。

前回は、不動産保有・管理の失敗例と不動産管理会社について、お話ししました。
今回は、個人所有の土地と不動産保有会社について、お話し致します。

不動産保有会社が個人から土地を賃借した場合

不動産保有会社が個人から土地を借りた場合、借地上に建物が建っていれば、原則として借地権が生じます。

一般的には、その対価として権利金を支払いますが、権利金には所得税がかかります。
支払わなかった場合には、認定課税されることになります。

土地の賃貸借の権利金は土地所有者に課税

一般的な取引慣行で、建物の所有を目的とする土地の賃貸借をするときには、権利金の授受を行う地域では借地人が同族会社であっても権利金を払わなくてはなりません。
この権利金は、原則として受け取った土地所有者の不動産所得となります。

なお、不動産などを3年以上の期間に渡って他者に使用させることにより受け取る権利金等で、その金額が賃料の2年分以上である場合には、臨時所得として平均課税の適用が受けられます。

ただし、平均課税後の所得課税所得が4,000万円を超えるような土地所有者にとっては、地方税を含めて約55%の最高税率となり税負担は変わりません。

また、権利金の額が土地の価額の50%を超える場合には譲渡所得となり、分離課税で所得税と住民税を合わせて約20%の税率となります。
高額所得者の個人地主の場合には、この方が有利でしょう。

借地権は認定課税?

民法上は、宅地の上に賃借人の建物が建てられると、その時点で借地権が発生します。
地主と建物所有者が同じ場合は問題ないですが、違う場合には借地権が地主から建物所有者に移転することになります。

したがって、同族の不動産保有会社といえども、個人から土地を借りて建物を建てた場合に、先述したような権利金の受け渡しがなければ、土地の一部を売ったあるいは贈与したものとみなされ、権利金の認定が行われ法人税が課されます。

内輪の取引だからとか、会社にはそんなお金がないからなどといった理由で、権利金を支払わないでいると思わぬ課税を受けることになりかねません。

借地権に関する考え方

借地権に関する考え方は、税法ごとに異なっています。

法人税法上の借地権の定義は、「建物または構築物の所有を目的とする地上権または土地の賃貸借」だけでなく、施設を設けないで物品置き場、駐車場としての土地を更地のまま使用するものも含まれます。

所得税は、「建物もしくは構築物の所有を目的とする地上権もしくは土地の賃貸借」を借地権といっています。

相続税法上の借地権の定義は、借地借家法に定める「建物の所有を目的とする地上権または賃貸借」をいいます。

このように、税法によって借地権の定義が異なっています。
同族間で賃貸借をするときは十分な注意が必要です。

借地権は入口課税か出口課税か

権利金を払わずにこのような認定課税をされないためには、2つの方法があります。

1つ目は、土地の無償返還に関する届出書の活用です。
2つ目は、毎年相当の地代(おおむね6%程度)を払うことによって借地権を生じさせない方法です。

バブル期以前は、相当地代方式が主流でしたが、高額な地代となりますので、土地の価額の見通しがきかない現在では、よく検討したうえで選択することが望ましいでしょう。

相当地代方式と無償返還方式

権利金授受の慣行がある地域では、権利金を払わなければ認定課税されます。

しかし、同族会社など特殊な関係では権利金を払うことの方が現実的ではないので、相当の地代の計算や改訂の方法が明確にされています。
それに伴い、権利金の認定見合せ、地代の認定等の取り扱いが整備されています。

相当地代方式

権利金授受の慣行がある地域で、権利金の授受に代えて相当の地代の授受があれば、それは正常な取引として扱い、権利金の認定課税は行われません。

相当の地代については、地価の上昇に応じて改定する場合には届出が必要で、改訂したときは借地権の価値はゼロとして取り扱われ、改定しなかった場合には、差額地代が認定課税されます。

届出をしなかった場合には、差額地代に対応する借地権の価値が結果的に借地人に発生することになり、この自然発生借地権については、借地権の譲渡等の際に課税されます。

個人地主・個人借地人の場合で、賃貸者契約が存在する場合でも、相当の地代の支払いがあれば、借地権価額の贈与の課税はありません。

なお、この相当の地代については。次のように計算します。

「土地の更地価額」 - 「実際に授受した権利金の額および特別の経済的利益の額」 × 「概ね年6%程度」 = 「相当の地代年額」

※土地の更地価額は課税上弊害がない限り次の金額によることも認められます。
(1)その土地の近くにある類似した土地の公示価格などから合理的に計算した価額
(2)その土地の相続税評価額またはその評価額の過去3年間の平均額

賃料改訂型と据え置き型

いったんは相当の地代を収受することを前提に借地権を設定した場合でも、その後、土地の価額の上昇に応じて地代を改定しなければ、地代率が低下し、相当の地代に対して不足する状態になります。

地代率の低下は借地権価額の上昇を進行させますから、自然発生的に借地人に借地権の含み益が発生していきます。
この場合、地価の上昇に応じて改定するか、改定せずにそのままにしておくかは会社の自由です。

改訂する場合は、選択した旨の届出を税務署長に届け出なければならず、その改定はおおむね3年ごとに見直すこととされています。

増額改定する方法を採用した場合には、借地権の評価はゼロですが、改定せずに土地価格が上昇した場合には、いわゆる自然発生借地権が発生することになります。

相当の地代を引き下げたとき

相当の理由もなく地代を引き下げたときは、引き下げた事実によって引き下げ後の地代を賃貸借契約で定めていたものとして、そのときに新たに借地権の設定があったものとみなされ、権利金の認定課税が行われます。

無償返還の届出

納税者の選択により、会社が借地権の設定に際して、通常の権利金も相当の地代も収受しなくても、借地契約において将来借地人が土地を無償で返還することを定め、借地人との連名の土地の無償返還に関する届出書を税務署長に提出すれば、相当の地代が授受されていない場合でも、権利金の認定課税はされませんが、実際の支払地代との差額について地代の認定がされます。

個人地主と個人借地人との間では、無償返還届出制度も地代の認定もなく、使用貸借の取り扱いが定められています。

期限到来により無償返還される定期借地権

定期借地権制度は、賃借人が契約期間満了時において、立退料などの負担もなく、無償で土地が返還されます。
これは借地借家法において、当然に契約として履行されるものです。

したがって、適正な契約関係にあれば、借地権の認定課税がされることはありません。

定期借地権は期間満了時に無償返還

1992年(平成4年)8月1日から施工された定期借地権制度は、普通借地とは異なり、契約条項を完璧にすれば契約期間満了時点で立退料などの負担もなく、土地が無償で返還されます。

借地人が自分の費用負担で建物を取り壊して、土地を更地にして返還してもらえる一般定期借地権と、事業用借地権、建物を譲渡してもらって借地権が返還される建物譲渡特約付借地権があります。

従来の借地契約とは全く異なります。

定期借地権を設定した土地の評価

一般定期借地権用地として土地を賃貸すると、借地権割合にもよりますが、相続税評価額が25%から45%も下がります。

なお、いずれの場合でも期間が経過するほど定期借地権用地の相続税評価額は増えるので注意が必要です。

同族会社が土地を定期借地権で借りた場合

同族会社との定期借地契約には、法律上の厳しい賃貸関係は認められないとして、あまり相続税評価額は下がりません。
多額の一時金の授受がない限り、一般定期借地権であっても20%しか評価が下がりません。

また、その定期借地権の評価は、会社の株式評価の計算上、資産として計上することになります。
そのため、株主が地主であれば効果はないといえるでしょう。

ただし、他でも説明している様々な相続税対策をしっかりしているという前提であれば、無償返還の届出や相当の地代、同族間の賃貸契約といった手数のかかることをせずに、土地の賃貸借を確実に立証できます。
法的的にも税務的にも優れた方法といえるでしょう。

終わりに

今回は、個人所有の土地と不動産保有会社について、お話し致しました。

内輪の取引だからといって、おろそかにすることはできません。
権利金の設定価額や地代の計算、改訂の方法といった金員のことから、定期借地権の契約方式など、その内容によって課税の結果が大きく変わります。

なお、記事の内容は、掲載時点の法令・情報に基づいています。
そのため、最新の法令や情報のご確認をお願い致します。

また、税金の内容によっては、非税理士により行うことが禁止されている税理士業務に抵触する可能性があります。
具体的なご相談は、必ず税理士や税務官公署等にお願い致します。

個人所有の土地と不動産保有会社について、基本的なことをまとめました。
次回は、不動産保有会社を活用した相続対策について、お話しします。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。