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不動産保有・管理の失敗例と不動産管理会社について

不動産管理の失敗例とは
前回から、数回にわたって不動産活用のための会社設立について取り上げております。

2019年(平成31年)10月から、社会保障費の拡大に伴う財源不足を補うため、消費税の税率が10%に引き上げられました。
このとき、消費税の増税に伴い、低所得者層の負担が重くなることを考慮し、高額所得者および資産家には相続税・贈与税の最高税率の引き上げと相続税の基礎控除減額が行われました。

マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)による国民全体に番号を交付する個人番号制度は、資産家高額所得者の所得や資産の透明化が進み、大きな影響が予想されます。

土地所有者を中心とする資産家の方々は、本格的に手を打たなければ次第に資産を承継することが困難になるでしょう。

そこで、個人の賃料収入からわずかな管理料を受け取ることしかできない旧来型の不動産管理会社ではなく、収益を生み出す不動産を会社が直接所有する不動産保有会社を目指すことが考えられます。

前回は、高額所得者と資産家の増税に対する不動産会社の活用について、お話ししました。
今回は、不動産保有・管理の失敗例と不動産管理会社について、お話し致します。

不動産保有と管理の失敗例

不動産管理会社などを作っても、その利用方法を間違ったために、相続税対策や所得税対策の効果がなかったり、場合によっては逆効果になるケースがあります。

以下、その失敗例をご紹介します。

賃貸建物を配偶者や子が建築

建物を土地所有者が建設して賃貸した場合には、貸家建付地として土地の評価を引き下げることができます。

また、建物も建築価格の60~70%程度で評価される固定資産税評価額となり、さらにこの評価額から借家権割合を控除された評価額となるため、大きな相続税額引き下げ対策になります。

ところが、土地所有者の配偶者や子が建物を建てて賃貸した場合は、建物を建てた配偶者や子の所有物であり、土地は通常自用地として評価されるため、貸家建付地として評価できないことになります。

親族間で土地を貸している場合には、固定資産税程度の地代を払っていても「賃貸借」ではなく「使用貸借」となります。
収入の移転対策や土地所有者の所得税対策のためでしょうが、それならば会社を設立した方が大きな効果を得ることができます。

駐車場収入を配偶者や子の所得として申告

土地を青空駐車場として第三者に貸していて、その土地所有者の配偶者や子がその駐車場の管理をしている場合、税務上、収入は土地所有者のものとなります。
その駐車場収入を全て管理している配偶者や子どもの所得として申告すれば、税務調査を受けた場合、否認されるでしょう。

所得税対策として所得を分散することを目的とするならば、シャッター付き駐車場のように法人税法上の建物または構築物に該当するものを会社所有にして、契約や資金管理、物件管理などを会社で行えば、否認されないでしょう。

不動産管理料が過大として否認

個人所有の不動産の管理のみを会社が行っている場合に、個人が会社に支払う管理料についても管理料が過大であるとして、税務調査で否認されている例があります。

管理料については、概ね5%から10%ぐらいです。
ただし、実際の管理の内容によって適正な水準が変わります。

中には50%を超えるような管理料を取っていたような場合もあり、このような場合には確実に否認されることになります。

所得分散と相続税額引き下げ対策としては、不動産保有会社とするべきでしょう。

管理会社を作った目的とは

不動産管理会社を設立して個人に入る収入の15%を会社に管理料として払ったとしても、収入の移転効果はそれほど大きくありません。
しかも個人に入る収入そのものが900万円以下の場合には、所得税住民税の実効税率は約33%で、税負担はそれほど大きくはありません。

路線価が下がってきて相続税がそれほど多額でない場合には、不動産保有会社でない限り、あえて会社を作ることはありません。
会社の維持管理にも費用もかかります。

相続税額所得税の節税効果の試算とねらいを明確にしたうえで、実行しましょう。

合同会社(LLC)による不動産保有会社の設立

最近の不動産保有会社の設立は、株式会社ではなく合同会社(LLC)によることも多く行なわれているようです。

それは、株式会社に比べて、設立や運用が簡易で費用も少なくすむことがあげられます。

合同会社で不動産保有会社設立

合同会社は1円から設立することができ、設立するときの手続きも株式会社よりも簡単です。

合名会社や合資会社は無限責任社員といい、会社が倒産したときに出資者に対して債権者から責任を無限責任で追求される可能性があります。

合同会社の場合には万一の事態が生じても、出資の範囲で責任を負えばよい有限責任となるため、株式会社と同じ取り扱いになります。

個人で保証をしていれば、その分は責任を負わなければならないことは同じです。

課税

合同会社で利益が出れば、当然会社に法人税がかかります。
また、その利益をもとに配当を受けた出資者個人は所得課税されます。

有限責任事業組合(LLP)の場合には、LLPそのものには課税されず、その出資者に直接課税されることになっていますので、その点が大きな違いです。

不動産保有会社を設立する場合には、合同会社の方が何かと便利でしょう。

合同会社の役員

合同会社では、業務を執行する社員(出資者)のことを業務執行社員と呼びます。
株式会社の役員にあたりますが、原則として社員の中から選びます。

なお、業務執行社員が複数いる場合には、互選により合同会社を代表する社員を定めることができます。これを代表社員と呼びます。

取締役の改選登記や決算公告が不要

株式会社の場合には、原則として2年に1度の役員改選登記をしなければなりません。
定款で定めることによって、10年以内の期間に伸長することができますが、費用がかかります。

また、毎年決算書の公告の費用と手間がかかります。
合同会社の場合には、これらの費用は不要です。

株主総会や取締役会が不要

株式会社の場合には、役員の選任や役員報酬の決定、役員退職金を決める際には、株主総会や取締役会の決議が必要になり、その手数や議事録作成などの手続きが必要になります。

しかし、合同会社の場合には、出資者全員の合意があれば自由に決めることができます。
分配のルールも定款で定めることができることになっていますので、株式会社に比べると自由に運営することができます。

合同会社はあくまで会社ですので、建物や土地を取得したときには会社名義で登記することができます。
有限責任事業組合は組合ですので、個人の集合体として登記することが原則です。

合同会社の方が会社としてさまざまな取引行為ができますので、その点では安心でしょう。

不動産管理会社のタイプ

不動産管理会社には3つのタイプがあります。

① 不動産を全く所有せず、個人から管理委託における「管理方式」。
② 建物を一括して借り上げて第三者に転貸する「転貸方式」。
③ 不動産を所有する「保有方式」。

不動産管理のみを行う管理方式の会社

不動産管理会社で一番多いのが、不動産管理のみを行うパターンです。

土地の所有も建物の所有も、土地所有者またはその親族個人で、会社はこれらの個人から管理委託契約によって建物や土地、駐車場などの管理委託を請け負うことになります。

実務作業には、賃借人の募集賃貸借契約、家賃・地代・駐車場代金の改定交渉、車庫証明書の発行や改定交渉、建物の定期的な清掃メンテナンス代行、集金と再請求、督促などの代行、管理結果の月次報告、記帳代行などがあります。

これらの作業量や規模によって、5%から10%程度の管理料の授受を行っていることが多いでしょう。

大手不動産管理会社で一括借り上げしてもらってるような場合には、管理の手間が少なくなるため、不動産管理会社に対する管理料がなくなることもあります。

いったん借りて転貸する転貸方式の会社

最近では賃貸集合住宅でも多く行なわれていますが、例えば、幹線道路沿いの賃貸店舗など、建物所有者からいったん不動産管理会社が建物を一括して借り上げる賃貸借契約を行ないます。

その後、借り上げた建物を第三者である賃借人と会社との間で賃貸借する契約を結びます。
結果的に、管理方式の管理料を会社が受け取っているのと同じ効果を生むことになります。

一括して借り上げる賃貸料を一定の契約期間変更せず、決めた一括借り上げ料金にしておき、空室の場合も賃料を払う契約や、一括借り上げといいながら入居している分の賃料の85%や90%などと決めて支払い、空室の場合には賃料を払い込まない転貸借契約等があります。

管理方式と転貸方式の運営実態

管理方式も転貸方式も、いずれも運営実態がなければいけません。

管理方式の場合には、管理を実際に会社が行う必要があります。
実態は会社の役員でも従業員でもない土地所有者が行っていて、役員や従業員(いずれも親族)が形式のみで、何の勤務実態もなければ会社が経営していることにはなりません。

また転貸方式の場合には、賃料の集金とその入金は会社が行うことになるため、賃借人から土地所有者の預金口座に直接入金されることはないはずです。
契約書などの外形的なことはもちろん、これらの実態もしっかりとしていなければなりません。

不動産保有会社

建物や土地を会社が保有してしまえば、先ほどのような心配はなくなります。

収入移転に関しても、土地の評価引き下げと対策という面からしても、後述する土地の賃貸借に関する税務上の届出や役員や従業員の勤務実態、地代や家賃の適正性が確保されていなければ問題ないわけです。

相続発生後の相続税の納税資金準備対策や個人財産の会社への移転など、目指すべきは不動産保有会社といえるでしょう。

管理料の水準

不動産管理会社が管理方式や転貸方式で受け取る管理料について、過大管理料として否認されている例が相当数あるようです。

管理方式や転貸方式の場合で、管理料を決めるときには、その金額が過大にならないよう十分検討して決める必要があります。

適正な管理料とは

不動産管理料について、明瞭に通達で「〇%が適正であると」いうように決められているわけではありません。

ただし、国税庁は「個人課税部門における事務運営の執行などに関する指示事項について(指示)平成12年9月6日課所6-46」の中で、「不動産管理料の算定方法について。不動産所得を有している個人が、自己または親族の主宰する不動産管理会社を設立し、その不動産管理会社に高額な管理料を支払うなどしている場合における当該管理料または管理料率については、目安となる適正額といったものはないのであり、委託する管理業務の内容、事業規模や収益の状況など個々の実態に応じて適切に取り扱うよう周知徹底されたい」としています。過

過去の裁決事例や判例などを参考として検討してみましょう。

管理方式と転貸方式の違い

単なる管理料を授受している契約と、いったん物件を借り上げて賃借人との賃貸借契約を会社が直接行っている一括借り上げ契約では、その管理料として認められる水準が違ってきます。
もっとも実態として同じ内容であれば、ほとんど変わりません。

転貸方式の場合には、実際に会社が第三者であるテナントや入居者と契約を結んでいるわけですから、入居者選定、募集、契約、入れ替わり時の改装、集金、建物清掃、定期点検、その他様々な業務については、会社が行うかもしくは指示監督を行っているのが通常でしょう。

その意味で、転貸方式の判決・裁判例の平成12年1月31日判決例のように、管理内容によっては10%近い管理料の採決が出ています。

管理実態の客観的な証明

不動産保有方式でない場合には転貸方式の方が望ましいわけですが、その場合でも必ず土地所有者や建物所有者と賃貸借契約を結び、契約書に業務内容を細かく決めておくことが重要です。

もちろん、テナントとの賃貸借契約は会社が行う必要があります。

地代通帳や家賃通帳の受領印は会社のもので、振込入金も会社の口座でなければなりません。
入居者やテナント、駐車場契約者などとの全ての書類金銭のやり取りは、会社でなければなりません。

また、維持管理費用についても、建物そのものにかかるものは建物所有者ですが、通常の維持管理費用は一括借り上げ会社とし、その範囲についても書面で明確にしておくことが重要です。
月に1回管理報告書を作成して、提出することも必要でしょう。

契約書や事実関係を書面化

オーナー所有の土地や建物を会社が借りる賃貸借契約書や、不動産保有会社にするための建物売買契約書と土地賃貸借契約書、またこれらに伴う各種税務書類の作成提出もしっかりと行い、事実関係を証明する書類を残しておかなければなりません。

賃貸管理業務委託契約書

管理方式の場合には建物や土地、駐車場の管理を会社に委託するわけですから、不動産を所有している個人または会社と管理会社との間で「賃貸管理業務委託契約書」を作成する必要があります。

ここで重要なのは、管理業務の内容と範囲を明確にすることです。

通常の第三者間で取り決められているような内容にし、同族会社間でしかありえない内容とならないようにする必要があります。

一括借上げ契約書

転貸方式の場合には、土地・建物所有者と一括賃貸借契約書を物件ごとに結んでおく必要があります。

もちろん複数物件についてまとめて契約することもできますが、報酬や委託する業務の内容について合理性のあるものにしておかなければなりません。

各種管理文書の整備

管理実態を客観的に証明できるように、各種領収書や契約書の名義を会社としなければならないということは既に述べたとおりですが、毎日の業務についてもきちんと書類化して残しておく必要があります。

一般の企業間では当然に作成される書類を、面倒だからと身内の同族会社であることでいい加減にしていると、税務上否認されることにもなりかねません。

出勤簿や源泉徴収簿を作成していないと、本当に勤務しているのかということになります。
また、清掃チェックリストがないと、契約書には清掃業務を請け負うことになっているが実際には行っていないのではないか、という指摘を受けかねません。

これらの書類は事実関係を後で証明する重要なものです。
しっかりと日々作成しましょう。

建物売買契約書や土地売買契約書

個人所有の収益建物を会社に売却するときには、当然ながら適正な価格で対価の授受をし、契約に基づいて行わなければなりません。

賃貸建物の場合には、敷金の引き継ぎ内容を含んだ賃貸借契約の引継確認書、振込口座の変更手続きなどを、きちんと行わなければなりません。

各種税務署類の届出

建物のみを会社が買い取る場合には、土地を個人から借りることになります。
そのため、会社に借地権の贈与が認定されないように、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に届けるケースも想定できます。

消費税に関するものもあります。
届出書類には十分留意する必要があるでしょう。

役員や家族従業員の給与・報酬

会社設立による節税対策のポイントの1つとして役員や家族従業員への給与支払いがあります。

当然に勤務の実態が必要とされるうえ、過大な給与も経費として否認されるので注意が必要です。

勤務実態が必要

不動産保有会社を設立して家賃収入を会社所有とすることができても、そのままでは会社に法人税がかかります。
会社には役員が必要ですし、家賃回収やその管理、物件の清掃、会社の経理、その他様々な仕事をする従業員も必要です。

その従業員に役員の親族の方がなっても問題はありませんが、何の勤務もしていないのに形式だけ従業員や役員のようにして給料を支払っても認められません。

出勤簿、清掃チェックリストへの担当者の押印などで勤務の実態を客観的に証明することが重要です。

過大な給与は否認

週に3回程度、賃貸建物の掃除をしている人に月給30万円を支払うようなことは通常考えられません。

普通はパートタイマーとして時間給900円程度でしょう(地域業種にもよります)。
そうすると、この給与のうち相当部分は同族会社であるから親族に資金を分散する目的で行っていると、認定されることも十分考えられます。

役員の場合には役員報酬として高額になることもありますが、役員として土地の購入や建物の建設、これらの際の借入金調達などの意思決定や重要な書類への署名押印などを実際に行なっているといった勤務実態がなければなりません。

学生や遠方に住んでいる人への給与

大学生である子を会社の役員にして、この子に役員給与を支給した場合はどうでしょうか。

会社の役員として、大学生はその能力と時間的余裕と勤務の実態の有無によって判定されるでしょうが、それほど高額な役員報酬は課税上認められないでしょう。

また、大阪の実家の不動産保有会社の役員として、東京に嫁いだ長女に高額の役員報酬を払い続けているというような場合、勤務実態の面から否認される可能性があります。

給与所得控除額が減額

2020年(令和2年)分以降については、500万円の給与収入のサラリーマンの場合は、自動的に144万円の給与所得控除があり、課税される給与所得金額は356万円になります。
親族が働くことによる所得分散の節税効果はここにあります。

しかし、2019年(令和元年)は、500万円の給与収入のサラリーマンの場合は、自動的に154万円の給与所得控除があり、課税される給与所得金額は346万円になりました。
給与所得控除額が10万円減額されています。

同様に、2020年(令和2年)分以降については、給与収入が850万円を超えた場合には、給与所得控除額の上限が原則として一律195万円とされました。

2019年(令和元年)は、給与収入が1,000万円を超えた場合には、給与所得控除額の上限が原則として一律220万円です。
給与所得控除額が減額されていることがわかります。

終わりに

今回は、不動産活用のための会社設立に関して、不動産の保有・管理の失敗例と不動産管理会社について、お話し致しました。

不動産管理会社などを作っても、その利用方法を間違ったために、相続税対策や所得税対策の効果がなかったり、場合によっては逆効果になるケースがあります。
相続税額所得税の節税効果の試算とねらいを明確にしたうえで、実行しなければなりません。

不動産保有会社と関係する不動産管理会社について、基本的なことをまとめました。
次回は、個人所有の土地と不動産保有会社について、お話しします。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。