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サービス付き高齢者向け住宅の経営と市場について【不動産活用】

サ高住の経営と市場とは
前回のブログでは、サービス付き高齢者向け住宅の補助金や税制のメリットについてお話ししました。
急速な高齢化の対策として、厚生労働省と国土交通省の両者が縦割り行政を排して、都道府県知事への登録制度としてサービス付き高齢者向け住宅制度ができました。
サービス付き高齢者向け住宅は、住宅建設費用の一部補助金の交付があり、税制上の優遇措置も設けられています。

我が国の総人口は、2004年(平成16年)前後より減少に転じ、また高齢者の占める割合が増えています。
この状況からサービス付き高齢者向け住宅が増えていますが、どのような特徴があるでしょうか。
数回にわたってサービス付き高齢者向け住宅への不動産活用について取り上げました。
今回は、サービス付き高齢者向け住宅の経営と市場について、お話し致します。

医療機関によるサービス付き高齢者向け住宅の経営

診療所や医療法人などの医療機関が、サービス付き高齢者向け住宅事業を展開している例があります。
医療・介護保険財政を改善する対策として、診療報酬改定が行われていることに起因します。

入院、リハビリ訪問、診療、看護、介護等を効率よく行い、かつ、高い診療報酬を得るうえで、サービス付き高齢者向け住宅を組み込んだ複合施設の活用が行われています。

療養病床削減と一般病床の在院期間短縮

医療保険財政の改善に向けて、療養病床の削減と一般病床の在院期間の短縮が求められ、いわゆる在宅医療が推進されるようになりました。

そのため、回復期リハビリを除く医療療養および介護療養の療養病床のうち、医療必要性の高い者向けの医療療養病床を確保しつつ、医療必要性の低いものについては、介護老人保健施設、ケアハウスなどの在宅療養支援拠点を充実することとされています。

その受け皿の1つとして、高齢者専用賃貸住宅と有料老人ホームが位置づけられていました。
これが現在、サービス付き高齢者向け住宅と有料老人ホームとして整備されています。

医療機関の運営の一翼

診療所や医療法人などがサービス付き高齢者向け住宅を運営し、訪問介護事業と訪問診療を組み合わせて入居者に安心を提供しながら、医療機関として療養点数の高い訪問診療報酬を確保しつつ、さらに介護報酬を得ることができます。

入院が必要となった場合には、病院へ移って療養していただきます。
医療法人の場合には、医療療養病床、回復期リハビリ、老人保健施設などにサービス付き高齢者向け住宅を組み合わせることになります。

医療介護サービス付き高齢者向け住宅を合わせて運営することで、効率的に収益を上げることができ、また患者の定着にもつながります。

在宅医療支援の診療報酬

診療所経営も厳しくなっていますが、24時間連絡を受ける医師または看護師を配置し、その連絡先を患者家族に文書で提供する「在宅療養支援診療所」は、診療報酬が通常より高く設定されています。

診療所が在宅療養支援診療所となり、サービス付き高齢者向け住宅を組み合わせて運営すれば、より一層経営効率が向上することになります。

医療機関からからみたメリット

土地所有者からみた効果を医療機関経営者の側から見ると、次のようにみることができます。

1. 建物賃借
医療法人・診療所などの医療機関が、サービス付き高齢者向け住宅経営またはサービス付き高齢者向け住宅と診療所やデイサービス施設などの介護施設の併設に取り組む場合には、土地所有者が建てた建物を賃借すれば、初期費用が非常に少なくて済みます。

たしかに経営を続ける限り賃料は必要です。
しかし、医療診療報酬や介護報酬が数年に一度大きく変更され、その都度大きな経営判断を求められる実情にあって、リスクを抑えて安定的に経営を続けるうえで、多額の投資や借入金を最小限に抑えるためには、建物を賃借する方法は安全でしょう。

2. 土地賃借
土地を賃借して建物を自己資金や借入金で調達して取得すると、土地取得にかかる初期投資を抑えることができます。
賃貸期間については、一般定期借地契約であれば50年以上の期間を確保できますので安心です。

たしかに地代支払いが長期にわたって必要ですので、 50年の地代支払い総額で土地を購入できるのではないかという考えもあります。
定期借地権の地代相場が年2%の場合もあり、50年でちょうど100年、つまり更地価額となります。
しかし、借入金で取得すれば利息がかかるため、元利合計で考えるとそう単純ではありません。

少子高齢化や製造業の海外進出を鑑みると、一部の地域を除いて地価の上昇は考えにくく、逆に下落の可能性のほうが高い状況も考慮する必要があるでしょう。

3. 自己取得
自己資金が豊富な場合や、病院や診療所周辺にすでに多くの土地を保有している場合には、自己資金による取得も充分あり得るでしょう。

介護事業者によるサービス付き高齢者向け住宅の経営

民間事業者が経営できる介護事業には、デイサービス施設、デイケアセンター、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、グループホーム、居宅介護支援センター、訪問介護ステーションなど、様々な介護サービス事業があります。

外部の医療機関と密接に協力し、食事提供、家事支援などを担当するスタッフへの手厚い教育をシステム化している業者がサービス付き高齢者向け住宅を経営すると、質の高いサービスで効率よく経営することができます。

介護事業者の様々な形態

一口に介護事業者といっても、様々な形態があります。

全国展開している介護事業者でも、有料老人ホームを中心に展開している事業者もあれば、グループホームを展開している事業者もあります。
かつて高齢者専用賃貸住宅を全国展開していた事業者もあり、これをサービス付き高齢者向け住宅に転換する対応をしている事業者もありました。

しかしながらもともと介護事業は地域密着から始まっており、今も地域密着の小規模事業者が圧倒的に多くなっています。

介護報酬も診療報酬と同様に数年ごとに改定され、その都度経営に大きな影響を及ぼします。
中にはその変化に対応しきれずに大手企業に吸収される小規模事業者も出てきています。

一方で事業分野を絞り込んで着実に効率化と手厚いサービス内容の高度化を図ることによって、地域で高い評価を得ている事業者も多く存在します。

事業形態の様々な形態

介護事業を行う事業形態も、全国展開している株式会社、地域密着で行っている社会福祉法人や株式会社、医療法人など、様々な形態があります。

社会福祉法人が、特別養護老人ホーム、ショートステイ、ケアハウス、グループホーム、デイケアセンター等を、単独または複数の施設で提供している例も多く存在しています。

社会福祉事業として介護を行っているわけですが、提供している介護サービスの質の内容は、その社会福祉法人によって大きな違いがあります。
NPO法人の形態をとっているところも多くあります。

介護事業者がサービス付き高齢者向け住宅事業に参入するメリットは、介護はもちろんですが、食事提供や家事支援などの介護以外のサービスの効率化による収益向上が、大きな狙いであると考えられます。

介護事業者が参入するメリット

サービス付き高齢者向け住宅事業は後進ではあるものの、すでに定着していた高齢者専用賃貸住宅の多くがサービス付き高齢者向け住宅として登録されています。

介護事業者は、すでにケアプランの策定、食事の提供、入浴介助などの介護サービスの提供、掃除や買い物などの生活支援業務を展開しています。

サービス付き高齢者向け住宅事業でも、これらのノウハウを活かし、すでに育てている介護職員や生活支援サービスに従事する職員がおり、その職員の教育システムも知っていますので、効率よく、低コストでこれらのサービスを提供することができます。

サービスの競争や違い

サービス付き高齢者向け住宅事業は、今後その提供されるサービスの内容が充実していて、かつ家賃やサービス料金が比較的安価な物件に人気が集まると考えられます。

今はまだ施設ごとの違いが明確になっていませんが、今後は口コミなどによって入居者からの選別が始まる可能性が高いでしょう。
そうするとコストダウンの可能性からすれば、全国展開している事業者の方が有利に見えます。

しかしことはそう単純ではなく、製造業や販売業のように大量生産大量仕入れでコストダウンできる部分は限られています。
特に介護サービスや生活支援サービスは、人的サービスが大半を占めます。
そのため、なかなかコストダウンができません。

それよりも暖かい心で入居者に寄り添うサービスが求められ、その質が勝負を決めます。
そういった意味では地域密着の方が向いている仕事かもしれません。
長期にわたって人の教育に力を入れ、地域で信頼を得ているところほど競争力があります。

入居者の所得者層

サービス付き高齢者向け住宅事業を展開するうえで、どのような所得者層に焦点を合わせるかは大きな問題です。

大企業で長年勤め上げ、ある程度の貯蓄と年金収入のある方は、良い施設で品質の高いサービスを求めることが多いでしょう。
一方で、貯蓄や収入の少ない方は、高い家賃やサービスを受けることは困難でしょう。

しかし、それぞれの層の人数は決まっており、これらの層が住んでいる地域もほぼ限定されています。
このことが土地所有者にとって、賃貸先に大きな影響を持つでしょう。

サービス付き高齢者向け住宅の賃貸先と賃貸の方法

建物を建て賃貸する場合や土地を賃貸する場合に、地域で信頼されている医療法人や介護事業者もしくは社会福祉法人に賃貸するのか、全国展開している介護事業者に賃貸するのか、または賃貸借契約はあくまで入居者と行い、家賃は入居者から受け取り、入居者は介護や生活支援サービスの契約を介護事業者などと結ぶのか、などを検討しなければなりません。

大手介護事業者への一括借り上げによる賃貸

建物を建てて賃貸する場合に、全国展開している大手介護事業者に一括して賃貸する方法があります。

土地所有者は、建物を建築して大手の介護事業者に賃貸するだけですから、介護や生活支援サービスについての知識やノウハウは必要ありません。

通常の賃貸住宅経営における一括借り上げ制度と同じです。
空室ができた場合は、介護事業者がそのリスクを負担し、建物を賃貸している土地所有者の受け取る家賃には影響しません。

この場合のリスクは、この介護事業者が倒産して家賃が入らなくなることです。

しかし、大手の介護事業者が倒産するような場合には、通常よほど杜撰な経営をしていない限り他の大手介護事業者が買収したり、再生機構や金融機関などがあと引き受ける大手企業に事業譲渡したりして後を引き継ぐ例が多いです。

しかし、リスクがあることは事実です。

入居者と直接賃貸借契約を締結する方法

建物賃貸借契約はあくまでも入居者と結び、介護や生活支援サービスの契約は、提携している事業者と入居者が直接直接行う例もあります。

この契約のパターンはあまり多く見受けられません。
この場合の空室リスクは、建物所有者がすべてを負うことになります。

しかし、直接管理するため家賃の総額を手にすることができます。
一括借り上げの場合には、リスク分を考慮して家賃収入が入居者との直接契約の額より少ない例が多いので、収入を確保するにはこの方法がよいという判断もありえます。
また、一括借り上げによる管理料支払も不要となります。

この方式の場合、空室リスクはすべて建物所有者負担になります。
しかも、入居者にとって選択の大きな基準となるサービスの内容は、提携している介護事業者や家事サービス事業者のサービスの質に大きく依存します。
その部分については、建物所有者は事業者の取捨選択入れ替えで対応するしかありません。

確かに家賃収入の額も1つの大きな要素ではありますが、サービス内容の質や口コミによる評判が事業の成否を決めるポイントになることを想定しておくべきでしょう。

地域の医療法人や社会福祉法人への賃貸

既に地域の中で堅実に高い信頼を得ている医療法人や社会福祉法人が、サービス付き高齢者向け住宅事業に参入する際に、初期投資を抑えるために土地所有者が建築したサービス付き高齢者向け住宅を賃貸する例があります。

土地所有者にとっては、地域で信頼されており、自らもよく知っている医療法人や社会福祉法人なら安心でしょう。

ただ、こういった医療法人や社会福祉法人は、しっかりとした経営理念と経営方針を持っており、設備の仕様や部屋の大きさ・仕様などには少々厳しい基準がある例が多く、どうしても初期投資が大きくなりがちです。

だからといって、それに見合った家賃を得ることができるかというと、家賃は周辺相場と変わりません。
つまり、土地所有者からすると、投資効率が悪くなります。

もともとサービス付き高齢者向け住宅事業は社会福祉事業ですから、通常の賃貸住宅経営より投資効率が悪いのが一般的です。
そのうえ、より初期投資が大きくなれば、さらに投資効率が悪くなります。

外からは堅実な経営をしていると見えている医療法人でも内情は厳しいところもあります。
診療報酬改定と病床基準の改定などの影響に加えて、時代の変化についていけずに倒産する医療法人もあります。

そのようなところが、起死回生策としてサービス高齢者向け住宅事業に参入しても、経営ノウハウ、特に介護サービスや家事サービスのノウハウと職員育成のシステムが整っていなければ、ノウハウ取得のための時間が足りずに倒産ということも考えられるでしょう。

高齢者賃貸住宅の市場

我が国の総人口は、2004年(平成16年)前後にすでに減少に転じています。
65歳以上の高齢者の総人口に占める割合は今後も伸びて、5人に2人は65歳以上という時代もそう遠くないかもしれません。

一方、一昔前の3世代が一つ屋根の下に暮らす大家族は姿を消しつつあり、単身世帯や夫婦のみ、あるいは親と子のみという世代が増加しているため、高齢世帯数は増加して高止まりするでしょう。

高齢世帯の世帯数の推移

世帯主の年齢が65歳以上の一般世帯のことを高齢世帯と呼ぶこととします。
この高齢世帯の数は高止まりすると考えられています。

しかも高齢世帯のうち。一番大きな割合を占めるのが単身世帯です。
高齢世帯のうち、単身世帯と主婦2人だけの世代だけで、3分の2を占めることになります。

高齢世代が居住する住宅として

高齢者が、単独または夫婦で生活をする住宅として、元気な時から住んでいる分譲マンションや戸建住宅に、いつまで住み続けることができるでしょうか。

バリアフリーでトイレや浴室に車椅子で入れるような一般住宅が、どれだけあるでしょうか。

最近は90歳になっても元気に自活して暮らしておられる方もいますが、まだまだ少数派です。
いずれ、食事を作り、その片付けをして、掃除、洗濯などができなくなってきます。

どうしてもこれらを行う支援が必要となります。
これらは日常的に必要ですから、ある程度共同で暮らし、これらのサービスを効率よく受けることができる施設が必要となります。

一方で、通常の賃貸住宅は、少子化の影響で今後空室が出てくる可能性があります。
既に、日本全国の世代数を上回る住宅が現存しています。
しかし、その多くの住宅の中身は、とても現状、必要な物を満たしているとはいえません。

そのミスマッチを解消するものが、サービス付き高齢者向け住宅といえるでしょう。

終わりに

今回は、サービス付き高齢者向け住宅の経営と市場について、お話し致しました。

これまで複回にわたって、サービス付き高齢者向け住宅に関する不動産活用について、お話ししました。
今後もしばらく高齢化が進むと考えられ、賃貸住宅の経営が難しいものになると予想されます。
そういった点から考えると、サービス付き高齢者向け住宅に関わることは1つの候補となるでしょうし、また地域社会・福祉事業に貢献することにもつながります。

しかし、厚生労働省と国土交通省の両者が関わる事業であり、不動産の知識だけで経営を行うことはまず不可能です。
不動産と医療や介護の知識や経験をもつ人は少なく、また後発の事業であるため、一般の賃貸住宅と比べるとノウハウが不足しています。
診療報酬や介護報酬が数年ごとに改定されることも、経営を難しくする要素でもあります。

土地所有者にとって、土地の資産活用は長期にわたる事業です。
知識を深め、良いパートナーを得て、リスクがあることを理解したうえで、進めていかれると良いでしょう。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。