西中島南方駅より徒歩7分の不動産会社

BLOG ブログ

土地の境界「筆界」と「所有権界」の違いと筆界特定制度について解説

筆界とは何か
不動産を売却するためには、売主は買主に対し、土地の境界を明示しなければなりません。
土地の境界をめぐるトラブルは容易に解決しないケースも多く、慎重に対応しなければなりません。
境界については、過去の隣接者との関わりが大きく影響します。
感情的なもつれから、冷静な話し合いができないこともあります。

一方で、境界には、公的境界と私的境界があります。
一般的に境界といっているものが、どちらのことを指しているのか、理解できていなければ話し合いにもなりません。
隣接者との確認を行う前に、まず境界について理解を深めておくことが望ましいでしょう。
今回は、筆界と所有権界の違いと筆界特定制度について、お話し致します。

2種類の土地の境界・「筆界」と「所有権界」

土地の境界には、2種類あることをご存知でしょうか。

1つは、その土地が法務局に初めて登記されたとき、その土地の範囲を区画するものとして定められた「筆界」といわれる境界です。
その後に、土地の「分筆」や「合筆」の登記手続により変更されていないかぎり、登記されたときの区画線がそのまま現在の「筆界」となります。
「筆界」は、土地の所有者同士の合意によって変更することはできません。

もう1つは、「所有権界」といいます。
土地の所有者の権利がおよぶ、範囲を画する境界です。
「所有権界」は土地の所有者間で自由に移動させることができます。

「筆界」と「所有権界」は、通常は一致します。
しかしながら、土地の一部についてほかの方へ譲渡したり、ほかの方が時効によって所有権を取得したりした場合には、「筆界」と「所有権界」が一致しないことがあります。

公的境界「筆界」

登記所には、地図および建物所在図を備え付けるものとされています。
ここでいわれる地図とは、不動産登記法第14条2項で、「地図は、一筆又は二筆以上の土地ごとに作成し、各土地の区画を明確にし、地番を表示するものとする」とされている地図のことです。

上記のとおり、各土地の区画を明確にして、一区画ごとに地番が付されています。
この地番と地番の境が筆界であり、その土地の範囲を定められた公的境界のことをいいます。

公的境界は、公の制度として定められた線です。
そのため、土地の所有者同士の合意では、変更させることはできません。

不動産登記法に従い、土地の「分筆」や「合筆」の登記手続きにより変更されることがあります。
筆界を確認するためには、登記所に備え付けられている地図や土地に関する図面を探すとよいでしょう。
なお、登記所とは、登記事務などを行う国の行政機関のことをいい、法務局や地方法務局などを総称したものです。

私的境界「所有権界」

土地の所有者の、所有権などの権利がおよぶ範囲を定めた線が所有権界です。

これは、隣接する土地の所有者同士の取り決めによって決めることができます。
もちろん、土地の所有者同士で自由に移動させることもできます。

「筆界」と「所有権界」がなぜ一致しないか

土地が法務局に初めて登記されたとき、その土地の範囲を区画するものとして定められた「筆界」といわれる境界です。

最初の「筆界」は、旧土地台帳付属地図(地図に準ずる図面)が作成されたときまで遡ります。
旧土地台帳付属地図は、明治6年に始まる地租改正事業によって作成された野取絵図(のとりえず)(もしくは改租図ともいいます)をもとに、明治19年の地押調査(じおしちょうさ)によって改正された地押調査図が大半を占めています。
この時点では、筆界と所有権界は一致していたと考えられます。

しかし、これらの地図は、100年以上も前に行われた測量に基づいています。
そのため、面積や距離、角度などについては、精度が低いとされています。

また、100年以上もの期間に、さまざまな事情によって隣接する土地の所有者の間で境界が変わることもあるでしょう。
問題は、登記所で手続きをされずに、当事者間の間で変更されているケースです。

これらの事情が絡み合うことによって、筆界が、隣接する土地の所有者の間で決められた境界と一致しないケースが出てきました。

不一致が起こる事例

具体的に、どのようなことが原因で不一致となることが生じるでしょうか。

例えば、時効によって所有権を取得したケースが考えられます。
他人の所有地であっても、10年あるいは20年間、継続して占有していた場合、その占有していた土地の所有権を取得することができます。
(占有の期間の違いは、占有開始時に善意無過失であるかどうかによります)

時効により所有権を取得したときは、その所有権を登記する必要があります。
しかし、その登記がなされないと、筆界と所有権界が不一致になったままです。

また、占有していた土地が土地一筆の一部であった場合、分筆登記をしなければいけません。
分筆登記するには、従前の所有者の協力が必要になります。

越境した隣接地の建物や工作物が、そのままの状態で所有者が移り変わっていったというようなケースも考えられます。
例えば庇の一部など、地中近くではなく空中にあるものがわずかに越境しているという状態であれば、隣接者にとってもただちに影響があるわけではなく、また解決するため取り壊したりするには大層なことであろうとして放置されていることもあるかもしれません。

ほかにも、隣接する所有者の間で合意し所有権界に変更があり、境界の土地上にブロックを設置したとしても、変更があった部分の土地について分筆登記を行わなければ登記情報に反映しません。
そのままの状態で放置されてしまうと、筆界と所有権界がいつまでも一致しないことになります。

所有権界に変更がなされたときの当事者が、時の流れとともに変わっていき、後世の所有者が困ってしまうというケースは少なからずあるでしょう。

不一致に対する対応

隣接地の方と境界トラブルが発生したときに、まずは公的境界の「筆界」か、私的境界の「所有権界」か、どちらの不一致が原因でトラブルになっているか、見極めましょう。
それによって、解決するアプローチは変わるでしょう。

公的境界の「筆界」は、不動産登記法に基づいています。
こちらは、登記所に備え付けられている地図や土地に関する図面などを参考に、現地を測量して検証していくことになるでしょう。

一方で、私的境界の「所有権界」は、当事者の合意という民法に基づきます。
そのため、最終的には当事者で合意できるところを探していくことになるでしょう。

あくまで一例であって、対応は事案によって変わるでしょうけども、もともとは筆界と所有権界は一致していたと考えることはできるでしょう。

筆界のトラブルを裁判せずに解決を図る筆界特定制度

土地の筆界をめぐる問題が生じたときには、裁判(筆界確定訴訟)によって筆界を明らかにするという方法があります。
しかし、裁判の結果が出るまでには時間も費用もかかります。
また、所有者自身が、筆界を明らかにするための資料の収集を行わなければならず、手間もかかります。

もう1つ選択肢として、筆界特定制度があります。

筆界特定制度とは、土地の所有者の申請に基づいて、筆界特定登記官が、民間の専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。

筆界特定は、新たに筆界を決めるわけではありません。
実地調査や測量を含む様々な調査を行い、過去に定められたもともとの筆界を筆界特定登記官が明らかにすることです。
なお、申請人や関係人は、筆界特定が行われる前に、筆界特定登記官に対して、筆界に関する意見を述べたり、資料を提出したりすることができます。

筆界特定制度を活用することによって、公的な判断として筆界を明らかにできるため、隣人同士で裁判をしなくても、筆界をめぐる問題の解決を図ることができます。
また、当事者の資料収集の負担も軽減されるというメリットもあります。

参考:筆界特定制度【法務省】

参考:土地の境界トラブルを裁判なしで解決を図る「筆界特定制度」【政府広報オンライン】

筆界特定制度のポイント

筆界特定制度は、境界紛争の相手方が話し合いに応じてくれない場合でも、一方の土地の所有者だけで申請することができます。

筆界特定の申請ができるのは、土地の所有者として登記されている名義人、またはその相続人などです。
申請人は、対象となる土地の所在地を管轄する法務局または地方法務局の筆界特定登記官に対して申請します。

隣人と裁判をしなくても、土地の筆界を明らかにすることができ、土地の筆界に関する問題の解決やトラブル防止を図ることができます。

ただし、所有権の範囲についての争いについては、直接の解決を図ることはできません。

また、筆界特定の結果は、行政によって一つの基準が示されるということにとどまり、拘束力はありません。
しかし、筆界特定は公的機関が専門家の意見を踏まえて行った判断であることから、その内容について高い証拠価値があり、裁判手続でもその結果が尊重される傾向にあります。

特定した筆界に不満がある場合や、拘束力のある判決が必要な場合には、裁判(筆界確定訴訟)で解決を図ることができます。

筆界特定制度を申請する際には、申請手数料がかかります。
申請手数料は、対象となる土地の固定資産税課税台帳に記載された価額によって決まります。
対象となる土地には、相手方の土地も含みます。

また、申請手数料のほか、現地における筆界の調査で測量を要する場合には、測量費用を負担する必要があります。
一般的な宅地の測量を行う場合における、測量費用は数十万円程度となりますが、申請手数料と合計しても、裁判に比べて、費用負担は少なく済むでしょう。

筆界特定がされると、対象土地の登記情報表題部に、「令和○年○月○日筆界特定(手続番号令和○年○月○日第○号)」と、記録されます。

終わりに

今回は、筆界と所有権界の違いと筆界特定制度について、お話し致しました。

実務においては、隣接地所有者とトラブルになっているケースだけではなく、隣接地の所有者の存在が不明であるため、確認ができないケースもあります。
2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されますが、3年の猶予期間があるため、浸透するにはまだまだ時間がかかると考えられます。

筆界特定制度は、裁判(筆界確定訴訟)に比べると、費用や時間などのメリットもあります。
しかし、対象土地の登記情報表題部に筆界特定がされたことが記録されるため、対象の土地で筆界特定が行われたことがわかります。
私ならば、「筆界特定が行われた何らかの事情(紛争)があった」と推測します。
また隣接者にも影響があるため、筆界特定制度の利用には慎重であるべきです。

境界について理解を深め、事前に準備をしたうえで、状況によっては時間がかかるという覚悟をもって、慎重に対応しましょう。
もし隣接者と意見が合わなかった場合は、土地家屋調査士などの専門家の力を借りながら、できる限り当事者間で話し合うことが大切でしょう。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。

参考:不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~【法務省】