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心理的瑕疵に対する調査方法と告知の必要なケースについて

心理的瑕疵とは?
不動産売却など、不動産取引を行ううえで、心理的瑕疵についてどのように考え、対応する必要があるでしょうか。
前回は、人の死の告知に関するガイドラインが策定された事情について、お話し致しました。

心理的瑕疵について、前回と2回に分けてお話し致します。
今回は、人の死など心理的瑕疵の調査方法と告知の必要なケースについて、お話し致します。

人の死の告知に関するガイドラインのポイント

ガイドラインでは、過去に人の死が生じた居住用不動産の取引に際して、不動産業者(宅地建物取引業者)がとるべき対応について、現時点で一般的に妥当と考えられるものが整理されています。
宅地建物取引業法上負うべき義務の解釈について、調査義務やその留意事項、そして告知についてまとめられています。

なお、ガイドラインでは、居住用不動産について取り扱うこととされています。
住宅として用いられる不動産(居住用不動産)とオフィス等として用いられる不動産を比較した場合、居住用不動産は、人が継続的に生活する場(生活の本拠)として用いられるものであるため、買主・借主は、居住の快適性、住み心地の良さなどを期待して購入または賃借し、入居するため、人の死に関する事案は、その取引の判断に影響を及ぼす度合いが高いと考えられるためと、されています。

オフィス等として用いられる不動産において発生した事案については、それが契約締結の判断に与える影響が一様でないことから、ガイドラインの対象外とされています。
ガイドラインの対象外ではあるものの、オフィス等として用いられる不動産の取引においても、取引当事者の意向を踏まえつつ、適切に対処する必要があるでしょう。

参考:「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました【国土交通省】

人の死など心理的瑕疵の調査の対象・調査の方法

宅地建物取引業者による調査について、ガイドラインでは下記のようにまとめられています。

1. 宅地建物取引業者が仲介(媒介)を行う場合、売主・貸主に対して、告知書等に過去に生じた事案についての記載を求めることによって、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする。

2. 宅地建物取引業者は、原則として、自ら周辺住民に聞き込みを行う、インターネットサイトを調査するなどの自発的な調査を行う義務は無い。
仮に調査を行う場合であっても、亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、特に慎重な対応が必要である。

以上から、過去に生じた事案の確認先は、売主・貸主であるということになります。

宅地建物取引業者は、調査を行う場合であっても、近隣住民等の第三者に対する調査は、亡くなった方やその遺族等の名誉や生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要があり、特に慎重な対応求められます。

また、インターネットサイトや過去の報道等に掲載されている事項に係る調査については、そこで得られた情報が正確であるかどうかの確認は難しいでしょう。

そのため、ガイドラインでは、売主・貸主に対して、告知書等に過去に生じた事案についての記載を求めることによって、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとされています。

なお、分譲マンションの場合は管理業者へ確認を行うことも1つの方法です。
ただし、マンション管理業者と管理組合との間で締結された管理受託契約や、分譲マンションの管理規約等により定められていれば、不明、あるいは回答がないということがあります。

調査に当たっての留意事項

宅地建物取引業者による調査について、ガイドラインでは下記のようにまとめられています。

1. 宅地建物取引業者は、売主・貸主による告知書等への記載が適切に行われるよう必要に応じて助言する。

2. 売主・貸主に対し、事案の存在について故意に告知しなかった場合等には、民事上の責任を問われる可能性がある旨をあらかじめ伝えることが望ましい。

3. 告知書等により、売主・貸主からの告知がない場合であっても、人の死に関する事案の存在を疑う事情があるときは、売主・貸主に確認する必要がある。


売主・買主は、告知書等の書面への記載を適切に行い、これを買主・借主に交付することが、トラブルの未然防止とトラブルの迅速な解決のために有効です。
事案の存在について、故意に告知しなかった場合等には、民事上の責任を問われる可能性があります。

なお、取引の対象となる不動産において、過去に人の死が生じた事実について、契約後、引渡しまでに知った場合についても、告知義務があります。

人の死など心理的瑕疵の告知について

ガイドラインでは、裁判例等も踏まえて、可能な範囲で、現時点で宅地建物取引業者による告知の範囲として妥当と考えられる一般的な基準が示されています。
そのため、今後の判例等によっては、ガイドラインの内容が将来変わる可能性があります。

告知について、ガイドラインの原則では、宅地建物取引業者は、人の死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならないと、されています。


一方で、告知をしなくてもよいとされているケースは下記のとおり示されています。

1. 取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)。
※事案発覚からの経過期間の定めなし。
※賃貸借・売買取引

2. 取引の対象不動産、もしくは日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した「上記1. 」以外の死、もしくは特殊清掃等が行われた「上記1. 」の死が発生し、事案発生(特殊清掃等が行われた場合は発覚)から概ね3年間が経過した後
※賃貸借取引

3. 取引の対象不動産の隣接住戸、もしくは日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した「上記1. 」以外の死、もしくは特殊清掃等が行われた「上記1. 」の死
※事案発覚からの経過期間の定めなし
※賃貸借・売買取引

告知をしなくてもよいケースに関するガイドラインの見解

老衰、持病による病死など、いわゆる自然死については、そのような死が居住用不動産について発生することは当然に予想されるものであり、統計においても、自宅における死因割合のうち、老衰や病死による死亡が9割を占める一般的なものであるという見解が示されています。

また、裁判例においても、自然死について、心理的瑕疵への該当を否定したものが存在することから、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いものと考えられ、住宅として用いられる不動産(居住用不動産)において、過去に自然死が生じた場合には、原則として、賃貸借取引および売買取引いずれの場合も、これを告げなくてもよい、とされています。

ほか、事故死に相当するものであっても、自宅の階段からの転落や、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故による死については、そのような死が生ずることは当然に予想されるものであり、これが買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられることから、賃貸借取引及び売買取引いずれの場合も、自然死と同様に、原則として、これを告げなくてもよい、とされています。

ただし、自然死や日常生活の中での不慮の死が発生した場合であっても、取引の対象となる不動産において、過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等(特殊清掃等)が行われた場合においては、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられる、とされています。

また、取引の対象となる不動産における事案の存在に関し、人の死に関する事案の発覚から経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、その社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等には、当該事案は取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられます。

この場合は、宅地建物取引業者は、売主・貸主に対して、告知書などの書面に過去に生じた事案についての記載を求めること等による調査を通じて、判明した点を告げる必要があります。

ただし、調査先の売主・貸主・管理業者から不明であると回答されたとき、あるいは無回答のときには、その旨を告げれば足りるものとされています。

告知にあたっての留意事項

告げる際には、亡くなった方やその遺族等の名誉・生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要があります。
そのため、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はありません。

また、買主・借主に、事案の存在を告げる際には、後日のトラブル防止の観点から書面の交付等によることが望ましいことは言うまでもないでしょう。

終わりに

今回は、人の死など心理的瑕疵の調査方法と告知の必要なケースについて、お話し致しました。

先述のとおり、ガイドラインは、近時の裁判例や取引実務等を考慮の上、不動産において過去に人の死が生じた場合における当該不動産の取引に際して宅地建物取引業者が果たすべき義務について、トラブルの未然防止の観点から、現時点において妥当と考えられる基準をまとめたものです。

将来においては、本ガイドラインで示した基準があてはまらなくなることも想定されます。

また、人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引の取扱いや、搬送先の病院で死亡した場合の取扱い、転落により死亡した場合における落下開始地点の取扱いなどは、一般的に妥当と整理できるだけの裁判例や不動産取引の実務の蓄積がなく、現時点ではガイドラインの対象とされていません。
今後、取引の実務や判例、社会情勢や人々の意識の変化に応じて、適宜見直しがされるものと考えられます。

しかし、これまで基準となるものはありませんでしたが、ガイドラインが策定されたことによって、取引が円滑になることが期待されます。
今後の、ガイドライン策定と運用による影響や変化に注目しましょう。


執筆者
MIRAI不動産株式会社 井﨑 浩和
大阪市淀川区にある不動産会社を経営しています。不動産に関わるようになって20年以上になります。
弊社は、“人”を大切にしています。不動産を単なる土地・建物として見るのではなく、そこに込められた"想い"に寄り添い受け継がれていくよう、人と人、人と不動産の架け橋としての役割を果たします。