西中島南方駅より徒歩7分の不動産会社

BLOG ブログ

傾斜地等で擁壁がある不動産売却の注意点

擁壁とは何か
平地にある不動産では縁がないことも多いですが、傾斜地や高台、丘陵地などの場所では高低差のある不動産が多いでしょう。
安全性に関わる問題であり、維持管理の義務が生じます。
がけ地や斜面の状況によっては、コストの影響も小さくありません。
今回は、擁壁がある不動産の注意点について、お話し致します。

擁壁とは

擁壁とは、高低差のある土地で、側面の土が崩れるのを防ぐために設置される壁状の構造物です。

傾斜地や高台、丘陵地にある住宅地では、隣家との間に土を積み上げたときに、土が崩れず安定する角度を超えるような大きな高低差が生まれる場合があります。
なお、土を積み上げたときに崩れず安定する最大角度を安息角(あんそくかく)といいます。
土は、積み上げると重力により横に崩れようとする水平方向の横圧がかかり、安息角に近づこうとする性質があります。
横圧は下に行けば行くほど高まります。一般的な角度は35度前後と言われています
土や建物の荷重や雨水の水圧で崩れてしまう危険性があるため、強固なコンクリートなどで支えなければなりません。
擁壁には、崖の崩落リスクを防止し、建物を守る役割あります。

また、擁壁と並べて土留めという言葉も使われます。
擁壁とは、その名のとおり壁状の構造物を言い、土留めとは、コンクリートブロックなどで土や法面(のりめん)が崩れないようにする土木工事のことを言います。
擁壁は、土が崩れないように留める工事、土留めの1つです。

宅地造成及び特定盛土等規制法

宅地造成の側面について、お話し致します。

まずは、宅地造成及び特定盛土等規制法について。
宅地造成及び特定盛土等規制法は、2022年(令和4年)5月27日公布、2023年(令和5年)5月26日施行された規制です。

2021年(令和3年)、静岡県熱海市で大雨に伴って盛土が崩落し、大規模な土石流災害が発生したことや、危険な盛土等に関する法律による規制が必ずしも十分でないエリアが存在していること等を踏まえ、宅地造成等規制法を抜本的に改正して、宅地造成及び特定盛土等規制法とし、土地の用途にかかわらず、危険な盛土等を包括的に規制するものです。
現行の宅地造成等規制法の規制区域が大幅に拡大される見込みです。

宅地造成等規制法

1961年(昭和36年)、全国的に梅雨前線豪雨が襲い、崖崩れや土砂の流出が起こり人命や財産に多大な被害をもたらしました。
このため、実効性のある宅地造成の基準が緊急に求められ、同年11月に公布、翌年の1962年に施行されました。
これが、宅地造成等規制法です。

都道府県知事、政令指定市・中核市・特例市の長等は、宅地造成に伴い災害が生ずるおそれが大きい市街地または市街地となろうとする土地の区域であって、宅地造成に関する工事について規制を行う必要があるものは、宅地造成等工事規制区域として指定することができます。

宅地造成等工事規制区域内で行われる宅地造成には規制があり、対象となる工事は許可が必要です。
1. 切土で高さが2mを超えるがけを生ずるもの
2. 盛土で高さが1mを超えるがけを生ずるもの
3. 切土と盛土を同時に行って2mを超えるがけを生ずるもの
4. 切土または盛土をする土地が500㎡を超えるもの

擁壁の設置に関する技術的基準も、記載があります。
宅地造成工事規制区域内において行われる宅地造成に関する工事は、擁壁、排水施設の設置、その他宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置が講ぜられたものでなければなりません。

宅地造成及び特定盛土等規制法

梅雨前線による大雨に伴い令和3年7月に静岡県熱海市で土石流が発生、死者や行方不明者を出す災害が発生しました。
この災害が発生した地域は宅地造成に該当せず、宅地造成等工事規制区域にありませんでした。
この災害から、危険な盛土等に関する法律による規制が必ずしも十分でないエリアが存在していること等を踏まえ、土地の利用区分に関わらず、人家等に被害を及ぼし得る盛土行為を許可制にすることが検討されました。
そして、抜本的に改正された宅地造成及び特定盛土等規制法の施行に繋がりました。

改正の概要は、以下のとおりです。
1. スキマのない規制
 (1) 都道府県知事等が、宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を規制区域として指定します。
 (2) 農地・森林の造成や土石の一時的な堆積も含め、規制区域内で行う盛土等を許可の対象とします。
2. 盛土等の安全性の確保
 (1) 盛土等を行うエリアの地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定します。
 (2) 許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため、「施工状況の定期報告」、「施工中の中間検査」、「工事完了時の完了検査を実施」等を設定します。
3. 責任の所在の明確化
 (1) 盛土等が行われた土地について、土地所有者等が安全な状態に維持する責務を有することを明確化します。
 (2) 災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても、是正措置等を命令できることとします。
4. 実効性のある罰則の措置
 (1) 罰則が抑止力として十分機能するよう、無許可行為や命令違反等に対する罰則について、条例による罰則の上限より高い水準に強化します。

なお、大阪府では、大阪府域の99.5%を占める都市計画区域が、盛土規制法における規制区域の指定要件の1つであることから、現行の宅地造成等規制法の規制区域が大幅に拡大される見込みです。
宅地造成及び特定盛土等規制法における区域指定が行われるまでは、現行の宅地造成等規制法が適用されますが、令和5年度に基礎調査が実施され、規制区域を抽出される予定のようです。

がけ条例

宅地造成の側面について、宅地造成及び特定盛土等規制法のほかにも、がけ条例の規制があります。
がけ条例とは、敷地内および周囲に、一定の高さを超える高低差がある敷地で建築物を計画するときに、条例によって制限を設けた条例です。
具体的な規制の内容は、都道府県によって異なります。

すでに擁壁が設置してある場合であっても、劣化の程度によっては建物が建てられない可能性があります。
普段から劣化状況を気にかけることはもちろんですが、建て替えや売却を検討される場合であっても十分注意が必要です。
がけ条例の内容は最低限度の基準を示していますので、敷地の状況に応じて、安全性の確保のために必要な対策を検討するのが望ましいでしょう。

がけなどに関する規制には他にも、「土砂災害防止法」や「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(急傾斜地法)」があります。

擁壁の種類

擁壁の設置に関する技術的基準として、宅地造成及び特定盛土等規制法第8条第2号では「鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造又は間知石練積み造(けんちいしねりづみづくり)その他の練積み造のものとすること」と定められています。

最近では新築される住宅の擁壁が新たに造られるときは、鉄筋コンクリート造による擁壁が数多くなっています。
また、間知(けんち)石や間知ブロックを用いた擁壁も比較的多くみられます。
1辺が30㎝前後の正方形、または短辺が30㎝前後の長方形の、大きさが揃った石またはブロックを積むものです。
これを6個並べると約1間(約180㎝)になることから、「間知」と名付けられたようです。

一方で、既存の住宅地では、大谷石(おおやいし)や、玉石(たまいし)造の擁壁があります。
これらは、現在の法令では認められておりません。
大谷石は間知石や間知ブロックに比べて、一般的に強度面でやや劣ると言われており、特に経年による損傷の懸念があります。
ひび割れやふくらみなどがないかどうか、また排水施設に問題がないかどうか、注意をしましょう。
また、石積み擁壁でも、練積みによって個々の石が固められていれば比較的安心ですが、空積み(からづみ)の場合には十分に注意しなければなりません。
空積みとは、擁壁の裏側や目地がコンクリートなどで固められずに、石などを積んだままの状態のことであり、強度が安定しているものとはいえないでしょう。
もちろん亀裂等が生じていないか、排水に問題がないかどうかも十分に注意しなければなりません。

参考:宅地造成及び特定盛土等規制法施行令【e-Gov】

擁壁がある土地の境界

ひな壇のようになっている土地では、境界近くに擁壁があるケースは少なくないでしょう。
境界線近くに擁壁がある場合、境界線がどこにあるかによって、問題が大きく変わります。

多くの場合は、上側の敷地の所有者が、擁壁を所有しているというケースと考えられます。
擁壁の下に、雨水等を流す側溝があるケースも多いと考えられますが、この側溝までを上側の所有者が所有しているとして境界線がある場合が、最もトラブルが生じにくいと考えられます。

民法第218条には、以下のようにあります。
「土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。」
つまり、原則では、雨水は自らの敷地内で処理するようにしなければなりません。
しかし、不動産にはいろいろなケースが考えられますので、実態が必ずしもそのようになっているわけではありません。

下側の敷地の所有者が、擁壁を所有しているときは、特に注意が必要です。
擁壁に不具合が生じた場合、その原因としては、上側の敷地の土に影響があるということも考えられるでしょう。
擁壁の工事費用の負担はどのようにすれば良いかなど、考えなければなりません。
また、上側の所有者の事情で擁壁の工事をしたい場合、既存の擁壁をさわるためには擁壁の所有者である下側の敷地の所有者の承諾が必要となるでしょう。

この類いのトラブルを経験された方は、少なくないように思います。
隣地の方との関係が悪いようであれば、なかなかスムーズに運ばないでしょう。
そもそも、境界線がどこにあるか、互いの認識を一致させることができているかも、極めて重要です。

擁壁の側にある側溝の清掃ができていなければ、美観だけではなく排水や匂いなどの被害を与え、知らぬ間に悪印象を与えておられることもあります。
心配事は、安全面だけではありません。

イメージしにくいかもしれませんが、似たようなトピックはほかでも取り上げられておりますので、探してみられるといいでしょう。

終わりに

今回は、擁壁がある不動産の注意点について、お話し致しました。

高台にある建物は、室内からの景観に期待できる場合も多いでしょう。
しかし昨今では、前面道路からの高低差があって階段を利用しなければいけない住宅は、高齢者には負担になるため、その階段の上がり降りが叶わないことから転居等を余儀なくされることもあります。
また、これまでお話ししましたように、災害を防止するための規制もあります。
擁壁に関する土木工事は建物倒壊などの危険性に関係するため、ただ規制をクリアするレベルではなく、敷地の状況に応じて必要な対策を検討するのが望ましいでしょう。
そのために要する費用は、決して安いものではありません。

また、境界線に擁壁がある場合は、その擁壁がどちらの所有であるのか等、十分に確認し明示しておくことが望ましいでしょう。